第5話 邪悪の星『ブルゼ』

 ―ここは邪悪の星『ブルゼ』の闇の魔宮―


「陛下、ご機嫌うるわしく、、、。グラフ、ただ今帰還致しました」


「おお、よく帰ってきたな、と、、、そう言うとでも思っておるのか?あんな小娘たちに恥をかかされおって。どのツラ下げてワシの前に現れたのじゃっ」

 

 『ブルゼ』の王リオンは、目の前でひざまずいているグラフに向かって、怒りを露わにした。


「大体、そのオレンジ色の髪の毛はなんだ。われら『ブルゼ』の星の王族は、髪の毛の色は紫と決まっておる。紫は邪神に通じる色。紫はわれら王族のみに許された色、王族の王族たる所以ゆえんなのじゃ」


 そう言うリオンの髪の毛も、確かに紫色に怪しく輝いている。

 ただし、グラフは肩の辺りまでのストレートな髪の毛だが、リオンの髪の毛は、燃え上がるように天に向かって生えている。


「こ、これは、、、」


 グラフはリオンに言われて、ハッとして自分の髪の毛に手をやった。


「実は、ワタシにもなぜだかわからないのです。急に紫色からオレンジ色に変わってしまい、、、。」


「なんということじゃ。そのように燃えるようなオレンジ色など、、、。それではまるで太陽神ではないか。われらは闇の勢力なるぞ」


「ははっ、すぐに対処を」


 グラフはひざまずいたまま、頭を垂れた。


「それにその目の色も、なぜ緑色なのじゃ?燃えるような赤い目で、動物を操るのがわれらの流儀。それでは役に立たぬではないか」


「ははっ、それも、すぐに、、、すぐに、対処を、、、。」


 しかしリオンはいぶかし気グラフを見つめた。


「貴様、もしや、、、。もしやグラフではなく、グラフの名をかたるニセ者かっ」


 一瞬にしてリオンの紫色の髪の毛は、メラメラと炎のようにうねり、真っ赤な瞳はカッと見開かれた。


「このような者がグラフのわけがない。ダークネスっ、コイツを闇に葬り去るのだっ」


 リオンの一言で、脇に控えていた兵士が、両手に漆黒の剣を持って、グラフの前に進み出た。


「待てっ、ダークネス。ワタシだ、グラフだ」


 ダークネスと呼ばれたその兵士は、確認するように、顔をリオンに向けた。


「ニセ者じゃっ。構わぬ。剣を振れっ」


 ダークネスが再度グラフに向き直った時、グラフはリオンにもう一度訴えた。


「お待ちください、お父上。いや、、、〝パパン”」


 〝パパン”とは、グラフが幼い頃から、父親であるリオンを呼ぶ時の愛称だ。

 しかも、人前では決して口にしない、二人だけの秘密の愛称だ。


 ブルゼの王位を継承する者として、幼い時から厳しく育てられたグラフであったが、父子二人っきりの時だけは、甘えることを許されていたのだ。


 グラフはその愛称が、自分を証明してくれるのではないかと思った。

 

 ―パパン、、、!


「お前は、本当にグラフなのか?」


「紛れもなく、ワタシはあなたの息子、グラフです。お父上、お尋ねしたいことがあります」


「なんじゃ?申してみよ」


「われらは、闇の勢力として、この宇宙を邪悪な力で支配することを目指しておりますが、それは、、、」


「それは?どうした?」


「それは、、、正しいことなのでしょうか」


「なんじゃと?何を言い出すのじゃっっっ」


 リオンの髪の毛は、再びメラメラと燃え上がるようにうねった。


「ええいっ、構わぬ。ダークネスっ、闇の剣を振るのじゃっ。コイツはグラフではない。ニセ者じゃああぁぁぁぁぁっ」


 メラメラと燃え上がるようにうねった髪の毛から湯気が立ち昇り、リオンは宝石を散りばめた椅子を、後ろに蹴り倒して立ち上がった。


「陛下、お待ちください。どうぞ、お待ちをっ」


 ダークネスはリオンの前にひざまずいてそう懇願した。


 そして今度はグラフに向かって、


「グラフ様、なんということを。さあ早く、陛下に謝るのです」


 と言った。


 しかしグラフは、、、。


「お父上、愛の力とは、何なのでしょうか」


 どうしてもそう聞かずにはいられなかった。


「お前は、、、まだ言うかっ」


「グラフ様、何を仰るのです?早く謝るのです。でなければワタシは、あなた様に向かって闇の剣を振らねばなりません。どうか、、、グラフ様っ」


 ダークネスが必死でグラフを説得した。


「、、、待てよ。グラフ、お前、あの魔女に何かされたのか?」


「わかりません。愛の光が体内に入って、、、」


「なに?なんだとぉっ?」


 ぐぬぬぬぬぬ、、、。


 リオンは怒りで顔を真っ赤にして、手に持っていた杖を天に向かって振り上げた。


 ドラドラドッシャーン。


 魔宮の天井が崩れ落ち、宇宙の暗闇に包まれた。


「闇の勢力であるわれらに光を入れるとは。許せんっ。グラフがブルゼの王位継承者と知ってのことかっ。生意気な魔女めっ」


 リオンの目は真っ赤に血走り、口はワナワナと震えている、


「ダークネス、グラフを『邪の森』に放つのじゃ。オレンジの髪に緑の目だと?そんなことでは、王位を継承することはできん。もう一度、邪悪の気を取り戻すのじゃ。」


「クルとエルを呼べ。地球へ行って、あの魔女を叩きのめしてやるっ。」


 そしてリオンは、最後にグラフに向かってこう言った。


「愛などとたわけたことを。グラフ、よく覚えておけ。愛とはつまり、裏切りだ。愛ほど不確かなものはないのじゃ」


 リオンはそう言うと、グラフとダークネスを残して魔宮から出て行った。



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