第五話 空は狐娘と一杯やる
「クー! こっち、こっちだ!」
と、ギルドに併設されている酒場に着くなり聞こえてくるシャーリィの声。
見れば彼女が尻尾を凄い速度で振りながら、こちらに手を振っている。
(狐娘族って言ってたけど、なんだか実家で飼ってる犬みたいだな……)
空はそんなことを考えながら、シャーリィが待っている席に着く。
すると、彼女はすかさず彼に言ってくる。
「クー、お疲れ様だ! シャーリィはクーのために、席を取っておいた! 偉いか?」
「うん、ありがとう」
「♪」
と、シャーリィは何やら耳をピコピコさせている。
これまでの付き合いから考えるに、これは撫でろと言っているに違いない。
(周りの目が少し気になるけど……シャーリィが喜ぶなら)
なでなで。
モフモフ。
さわさわ。
ピコピコ。
「…………」
(シャーリィの耳、いつ触っても不思議な感覚だ。モフモフしてるけど、しっとりとしているというか……それに温かみがあって癒される)
くいくい。
ノビノビ。
きゅっきゅ。
コリコリ。
(うん、やっぱり不思議な感覚だ。狐耳を触るのって、どうにも癖になり――)
「あの! 注文は!? いつまでも座っているだけだと、迷惑なんだけど!」
と、空の思考を断ち切り聞こえてきたのは、酒場のおばちゃんの声だ。
おばちゃんはなおも言ってくる。
「頼まないなら出てってくれる!? あんたがいくら期待の星でも、注文しないならウチじゃ役立たず同然だよ!」
「た、頼む! 注文します! とりあえず特製ステーキと、果実ジュースを二人ぶ――」
「クー! シャーリィの分はいい!」
と、横から言ってくるシャーリィ。
彼女は耳をピコピコさせ、空へと言ってくる。
「シャーリィは奴隷だ! シャーリィはお金を持ってない!」
「大丈夫、僕がシャーリィの分も払うから」
「だったら、なおさらいらない! ご主人様に迷惑をかけるのは奴隷失格だ! シャーリィはクウが好きだ! だから、シャーリィはいい奴隷になりたい!」
「わかった……じゃあ、僕からのお願いなんだけど。僕はキミと一緒に食べたいんだ。それなら大丈夫だよね? シャーリィはご主人様に迷惑をかけないんだよね?」
「むぅ? で、でも一緒に食べると……ん、あれ……ぅう! 頭の中が滅茶苦茶だ! 難しいことを言って、クーはずるい!」
その後、再びおばちゃんから冷たい声をかけられ。
結局、空はシャーリィの分と二人分の注文を、無事にできたのだった。
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