第27話 心を撃ち抜かれました
いろいろと依織に聞いてみたい事もあるが、何を聞いても無くした記憶に触れてしまいそうで言葉が出ない。
俺が、質問する内容を決めあぐねていると、依織が不安そうな声で聞いてきた。
「睦月さん……睦月さんは私が一緒にいて迷惑ではないですか?」
「え? 何言ってるんだよ、迷惑なわけないじゃないか。突然変な事言うなよ」
「そうですか………」
「依織の作るご飯滅茶苦茶美味しいんだ。まだ二日間しか食べて無いけど、もうカップ麺には戻れそうにない。だから迷惑なんかじゃ無い。もちろんご飯だけじゃないけど」
「はい」
「お、俺が依織に一緒にいて欲しいんだ」
「はい」
依織の不安そうな顔と問いかけに、なんとかしなきゃいけないと思い、思わず必死に答えてしまったが、俺が一緒にいて欲しいんだ………自分で言っておきながらやばい。俺は一体何者なんだ?
テレビの主人公にでもなったつもりか?
どの口がそんな歯の浮くようなセリフを吐いたんだ。
自分で自分が怖い。
まさか自分の口がそんなセリフを紡げるとは思ってもいなかった。
「睦月さんはやっぱり優しいですね。睦月さんでよかった……」
これはあれだよな………
俺が彼氏でよかったって言う意味だよな。
俺だって本当の彼氏だったらどんなによかっただろうか。
彼氏として依織を支える事が出来たらどれだけよかっただろうか。
「ああ、うん」
流石に堂々と返事をする事が出来ず曖昧な返事になってしまったが、その後、部屋に戻ってもする事も思いつかないので、ゆっくりと30分ほど歩きながら依織と話をした。
俺は依織の中学校の時のことをいくつか尋ね、依織は俺のことを結構聞いてきた。
「睦月さん、趣味はなんですか?」
「趣味か〜無趣味に近いんだけど、漫画を読んだりとかかな」
「漫画を読むんですね。どんな漫画が好きなんですか?」
「ちょっと子供っぽいんだけど、冒険したりヒーロー物とかが好きかな」
「そうなんですね。睦月さんっぽいですね。私のヒーローは睦月さんです」
依織がニコッと笑みを浮かべて破壊力抜群の言葉を俺に返してきた。
やはり依織はナチュラルだけど、この一瞬で俺のライフはほぼ削られてしまった。
「依織……」
「はい、どうかしましたか?」
「いや、大丈夫」
本当は大丈夫ではないが、どうかしましたかと聞かれて、答えようがない。
あなたに心を撃ち抜かれました。
間違ってもこんなセリフは伝えられない。完全にやばい奴だと思われてしまう。
「漫画のほかにはなにかありますか?」
「そうだな〜結構映画は見に行ったりするけど」
「映画ですか? 私も映画好きです。どんなジャンルが好きとかありますか?」
「そうだな〜特に決まったジャンルはないんだけど、その時流行ってるのとかを結構見るかな〜」
「そうなんですね。私は結構ラブストーリーとかが好きです。よかったら今度一緒に映画館に行きませんか?」
「ああ、もちろんいいよ」
「本当ですか? うれしいです。睦月さんと映画楽しみです」
依織が本当に嬉しそうな表情を浮かべてそう言ってくれる。
依織と二人で映画。
俺が異性で一緒に行ったことがあるのは母親だけだ。それも五年近く前のことだ。
初めて映画に一緒に行く女の子が依織とは夢にも思わなかったが、今から緊張してしまう。
僅か三十分程度の散歩だったが、その三十分で俺は、とてつもなく疲れてしまった。
散歩を終えて部屋へ戻るとクーラーの効いた部屋はやっぱり涼しかった。
お知らせ
明日HJ文庫モブから始まる探索英雄譚4が発売です。
電子は本日24時以降配信です。
よろしくお願いします。
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