りんりんと愉快な仲間たち 1

「………相変わらずですな、おりさん」

「ああ?」

「ああ?ってあなた………」






 昼間は随分とあったかくなってきた3月。



 ここは俺の部屋。





 に。






 季節感クレイジー男、こと、神田織波。



 職業・神。






 が、いらっしゃる。






 今日もスカイブルーが眩しい半袖アロハに白のハーフパンツ、裸足。






 もう一度言おう。



 今は、昼間は随分とあったかくなってきた3月。



 つまりは朝晩はまだ寒い3月。………3月だぜ?日本だぜ?ハワイじゃないんだよ、残念ながら、ここはさ。






 まあ、真冬の山奥でアロハにハーフパンツだから、まじクレイジーなんだけどな。けどな。



 ここは一応山奥じゃなくてシャバだからさ。






「神に向かってクレイジーとか、相変わらずありえないな、りんりんは」






 俺の思ってることが何故か筒抜け………って、神さまだから当たり前で朝飯前らしい。の、おりさんがソファにでろーんって伸びながら言った。






「ありえないじゃねぇ。神ならTPOをわきまえろ。神なら」

「………りんりんは、バカなのか?」






 伸びたソファから、ちょっとだけ頭を上げて俺を見る。







 ………誰かこいつ、いや、この方を連れて帰ってください。もしくは何処かへつまみ出してください。






 いきなり来て、っていうかいきなり現れて、それはいつもだけど、うおってびびって、それからずっとこんなだ。






「………一応ワタクシ、そこそこ名の知られた大学を卒業しておりますが」

「だからか」

「………それはどういう意味でございましょう」

「頭がかてぇんだよ」

「あー、それは否定できないわ」






 出身大学だの成績だのは置いといて、頭はかたいよ。自分でもそう思う。



 けどさ。






 随分柔らかくなったんじゃね?






 だって。






「神だからTPOはわきまえないんだよ。覚えとけ。テストに出るぞー」

「………何のテストだ、何の」

「神田織波テスト」






 今目の前にいるこいつ………いらっしゃるこの方は神さまで。






「…………ぜってぇ受けねぇ、んなテスト」

「頭かたいなありんりん」

「ってかいつまで居んだよ。もうすぐセツが帰ってくんだけど」






 セツ。






 この神・神田織波によって便宜上偽造、捏造された名前は『奥山雪おくやませつ』。



 その正体は、雪女。………いや、男だけど。






 スキー場でホワイトアウトして遭難した俺を、文字通り命懸けで助けてくれたセツは、俺のせいで一度この世から去った。






 大きすぎる想いを俺に遺して。






 思い出しても泣けるわ。






 けど、この、目の前にいるこいつ………いらっしゃるこの方の力によってよみがえり、雪女体質も改善され、めでたく俺たちは結ばれて、さらにセツは雪となって俺と一緒に今暮らしてる。






 ほら、柔らかくなってんじゃん。






 神に雪女に。






「………いつまでだっていいだろ」

「良くねぇ、迷惑。せっかくの休みなのに。………あ、おりさんどうせまたユキオに何かやったんだろ」

「………うるせぇ」

「………またかよ。あ、だから今朝めっちゃ寒かったのか?………ったく、勘弁してくれよ、いつもいつも」

「ユキオがかわいいから仕方ねぇだろ」

「仕方ねぇじゃねぇっ‼︎」






 おりさんは思いっきり口を尖らせて、ぷいっと横を向いた。






 ………ガキか。






 いや、中にいる………いらっしゃる神さまは知らないけど、外側のおりさんは確かまだ未成年って言ってた気がするから、仕方ないのか?






 ………俺はもうちょい大人だった気がするけど。






「我慢と誤魔化しを早くから覚えて、我慢と誤魔化しによってできることを早くから増やすことを大人になることと思っているなら、その先には苦しみしかない」

「………」






 すんません。






 ぼそっとなんかすげぇことを言われて、思わず謝った。






 ガキとか未成年とか言ってすみません。けど。



 けど、ユキオのことになると途端にガキだろ?違うのか?






 ユキオ。






 おりさんの。神さまのコイビト。






 は。



 セツの弟で、白いもふもふのイエティ。



 でも、おりさんがキスをすればその姿は剥がれ落ちるように、雪女・セツと同じぐらいキレイなヒトガタになる。………俺的にはもちろんセツのが好みだけど。






 神に雪女にイエティまで俺のまわりには居て、俺はそれをもう普通に認めてて普通に付き合ってる。






 ほらほら、柔らかい以外の何でもないじゃん。俺の頭。






「かてぇよ、全然」

「………だから早く帰れよ」

「………」






 まじで誰かこのめんどくせぇ神さまを何とかしてくれ。






 どうせ筒抜けだからいいやって、俺は思いっきりでかいため息をわざとらしく吐いてやった。

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