「青春タイムリープ」彼女達と過ごした1年間の話

ゴリラつらみ

第1話 こいっていうから会いにきた。

「皆さんおはようございます出席をとります」


「はーーいっ」


 若々しく元気な声が、先生の言葉に反応しクラスに響き渡るような声で応える。


 騒がしかった教室も、反響の後に一時の静寂を取り戻し、先生に名前を呼ばれた子は元気な挨拶を返すを繰り返していた。


「〇〇くんっ」

「はーいっ元気ですっ」

「〇〇ちゃん」

「はいっ」


 …………いつも通りの5の2の教室で元気なクラスメイトの挨拶を聞きながら、和歌鷺 柳永は自分の順番を待ちつつ、うとうとと船を漕いでいる時だった。


 さっきから鉛筆についている消しゴムの部分で隣の女子に突かれていた。


「ねぇりっくん寝ちゃダメだよ?せめて朝のホームルームは起きてようよ」


「うーん、眠いんだみっちゃん」


「また遅くまでサッカーの練習やってたの?本当に好きだね」


「うん?うーんありがとう……なんかものすごく眠くて……おやすみ、みっちゃん」


「て、はぁ〜話聞いてないしもうー怒られても知らないよ?」


「うん、うん…………」


 ゆっくり船を漕いでいたが、それも疲れたのか机に腕を置き、それを枕がわりにして寝初めてしまった。


「もう、柳永たらまぁそこも好…なんだけど…」


その言葉は最後まで柳永の耳には届かず深い眠りついた。



「和歌鷹 柳永?和歌鷹 柳永起きなさい!」


「え?あ!はいっ元気ですっ」


 恫喝するような野太い男性の声を聞き身体を反射的に柳永は起こし先程の皆に習い挨拶をする。


 するとクラスからはクスクスと笑い声が聞こえたり、りゅうー寝過ぎ、元気ですとか小学生かよなどの声が聞こえるが……寝ぼけている柳永はまだ夢を見ているような気持ちだった。


 そのままホームルームは進んでいき自分を起こした男性の声は行事など話している様子だが、柳永はまだ夢の中にいるような気持ちだった。


 寝起きで薄らとしか見えず霞んでいた視界も、次第にクリアになり、声のしている方を見ると知らない中年の男性が教壇にいた。それどころかクラスを見渡しても知らない顔ばかりであった。


 そこには柳永から見ると大きなお兄ちゃん、お姉ちゃんが沢山いる光景が広がっていた……。



「んー夢か……リアルな夢だな……」

 そんな独り言を言っているとシャーペンで隣の女性から突かれているのに気づき、視線を移そうとすると机の上に紙の切れ端を他の人の目につかないようにそっと置かれる。


 眠気まなこのまま顔を近づけ内容を確認すると、そこには……。


「柳永?寝すぎだよ?でも元気ですとか懐かしいね笑」


 可愛い丸字でそう書かれていた。隣を見ると……やはりそこには知らない女性がいる。ポニーテールのこちらを見ている目が優しくも顔立ち全体は凛々しくカッコいい分類に入るであろうお姉ちゃんがそこにはいた。


「綺麗な人……」


「うん?なによ柳永っ褒めても何も出ないよ?というか…ぷっなんか、変な柳永〜」


「うん?お姉ちゃん僕の知り合いなの?」


「ねぇ…柳永本当に言ってる?」


 冗談と捉えたのか、失言をしてしまったよか隣の彼女の顔は心なしか表情が険しくなる。


「お姉ちゃん……怖いよ?僕何か悪いことした?」


「………………え?何言ってるの柳永?私だよ?幼馴染の月元 美玲だよ?」


「……え?みっちゃん?何言ってるの?みっちゃんは小学5年生だよ?もしかしてみっちゃんのお姉ちゃんとか?僕寝てたから分からないんだけど……」


「は?ねぇそれ面白くないよ柳永?」


 新手の遊び?ツイットとかで流行ってるの?と笑いながら返してくるが、内容は柳永には届いておらず。じっと隣の女性を見つめていた。


……顔を見ると柳永の知っている。隣の席のみっちゃんの面影がある。髪型も変わってるし大人びているが、みっちゃんが成長したらこんなふうになるんだと予測ができた。

それとともに冷や汗がしたたり、額から落ちる。


 柳永は目が覚めて今の現状を段々理解してきた。


 それと同時にあり得ない、怖いという気持ちが胸元から身体全体に痺れるように広がっていくのを感じた。


 隣のみっちゃんと名乗る女性を見つめながら、これは夢なんだよな?と自分に問いかけ頬をつねるが‥‥。


「痛いっ……」


「何やってるの?柳永?ボール頭にでも当たったの?……そんなに私を見つめて?惚れたか?このこのっ」


「………………」


 現状を知れば知るほど段々怖くなってくる。

 もう一度寝たら、またいた世界に戻れるのではと淡い期待をし、目線を逸らし下を向く。

 そこから自分の視界に入ったのは胸元と腕、そのことから知らない服を着ていることに気づく、それと同時に首がきついと思ったらお父さんがいつも気だるそうに着けているものと同じネクタイが付いていた。


「………………」


「ねぇ?柳永なにか変だよ?」


 変だ……おかしい?学校で寝てたのになんでこんな大人の人達の中に?

……目も冴えてしまい、夢だとは思えず、柳永は軽くパニックになり無言で立ち上がると共に、窓側の1番端の席から廊下に向かい全力で走ってその場から逃げた。


「ねぇ?柳永?どうしたの!?」


「おいっ和歌鷹?」


 ザワザワと聞こえる教室を後にする。窓から見える景色は高く、上の階にいることがわかり下へと降りる。

 履いているのがサンダルで軽く階段で躓き走りにくかったが、自分の身体とは思えないぐらい身体が軽くまた、早く走れたこともあり、追いかけてくる声や、教室のざわめきはあっという間に聞こえなくなった。


「はぁ……はぁ……なんなんだよ……夢じゃないならなんなの?」


 昇降口を見つけるも自分の下駄箱など知るはずがなく、そのまま、グラウンドに出る……。


 今まで、大きな中央公園でしか見たことがない、広いグラウンドの奥に校門があることを確認して出口へと向かいひたすら走った。


 (なんなんだよ?インフルエンザの時の悪い夢みたい……怖い、怖いよ。)

 そう心の中で叫びながら校門に近づき校門の近くに女性がいることに気づくが無視して通り過ぎようとした時だった。


「柳永!?5年2組の和歌鷹柳永くんっ!」


 その言葉にはっと、足を止めてそちらを向く。


 そこには知らない女性がいた。金髪のロングヘアに吸い込まれそうなエメラルドの優しい瞳。物語から出てきたお姫様のような人がそこにはいた。


「はぁはぁ誰?」


「誰ってこいって言うから会いにきたんだよ?」


「大丈夫?しっかり息を整えて、ここじゃなんだから場所変えよう」


 息を整える間もなく、綺麗な外国の女性に手をつかまれて校門潜りそこからしばらく連れられて走った。


 そしてついたのは知らない公園だった。


 そこのベンチに座り、外国のお姉ちゃんがジュースを買ってきて手渡しで渡してくれる。


「はいっどうぞ」


「ありがとうお姉ちゃん」


「お姉ちゃん……か、本当だったんだね」


「うん?」


「なんでもないよ飲んで飲んでっ好きでしょうレモンティー」


「うんっ好きっ」


「うー可愛すぎるっいつもスカしてる柳永がかわいいっ」


「お姉ちゃん苦しいよ……」


 気づくと外国のお姉ちゃんに抱きしめられていた。


 汗もかいてるため、柳永は気恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。


 それに追い討ちをかけるように同時に柔らかいものが身体にあたり、鼻から全身を駆け巡るような、優しく包むような良い香りが柳永の鼻腔をくすぐり、頬を紅色に染める。


「あ!ごめんねっ可愛くてついっ」


「……可愛いのはお姉ちゃんだよ……恥ずかしいから次から気をつけてね?」


「……天使だ、まじ天使っ」


 そんな言葉を吐かれながらまた抱きしめられた今度は先ほどよりも強い力で抱きしめられる……。ギブギブと、声を出してやっと声が届いたのか解放される。


「うんっ満喫しましたっごめんね柳永くんっ」


 解放されると共に頭を優しく撫でられた。


「うん、………………」


「あーあれだよね怖いよねいきなり知らないところで自分も知らない人みたいになっててさっ」


「そうなの、お姉ちゃん……怖いよ」


「そうだね怖いね……て、それお姉ちゃんのことじゃないよね?それだとショック……じゃなくて柳永くんっ落ち着いて聞いてね?」


 優しく先程のようにまた頭を撫でる、彼女優しい手の圧を感じつつ、近くで瞳を見つめると、先程の校門で見た優しいエメラルドグリーンの瞳が心配そうに覗き込んでいた。


 深呼吸をすることだ、少しだけ落ち着きを取り戻したと同時に弱々しい返事を返す。


「…………うん」


「こころの準備できたかな?」


「うん」


「いいこだねっ」


「じゃあ話すねここはね?柳永くんから見たら5年、いや正確には6年後の世界なの、柳永くんは高校生になって1年生やってるのっ」


「なんでここにきちゃったの?どうしたら戻れるの?」


「ここにきちゃった理由は分からないんだでもねいい子にしてたら1年後のちょうど今日の日にね元いた時間に帰れるよっ」


「ほんと!…………でも1年もなの?」


「本当に可愛いなっ柳永にもこんな時期あったんだ」


「ごほんっごめんねいい子にしてたらだよ?じゃなきゃもっとかも知れないんだ」


「どうしたらいい子でいられるの?」


「うーんっサッカー頑張って、勉強も……赤点回避してあれね!30点とればいいから……て小学生からだとほんとに厳しいけどそこはお姉ちゃん頑張って教えるねっ秘策もあるしっ」


 彼女は続ける。


「あ、あとこれが一番大切なの、それがね自分らしく素直な気持ちで生きるのこの1年をそしたら帰れるよっ」


「うんっ……わかった僕頑張る」


「可愛すぎるイケメソで可愛いとか最強だよ〜」


「お姉ちゃん苦しい……」


 懲りずにまた抱きしめられる柳永。意地らしい視線を大きなお姉ちゃんにぶつけた。


「あ、ごめんねっ」


 悪びれている様子はないが、両手を前に合わせ、片目を瞑り、こちらを伺う様子をみて、ため息をつくと共に素直な疑問を問いかける。


「お姉ちゃん聞きたいんだけどいい?」


「うん?何かなお姉ちゃんに言ってみてっ」


「お姉ちゃんは誰なの?なんで僕が昔から今にきたって知ってたの?」


「うん?それはねっなんとねお姉ちゃんは柳永くんの彼女さんだからだよっ君から色々聞かされてたから知ってるの、そして君から託されたのっシャルの力が必要だってっ」


「シャル?ていうの名前?」


「うんっ小野寺シャルロットエルだよっ?略称がシャルなのよろしくねっ」


「わかったシャルねぇち…」


「気軽にしーちゃんまたはハニーて呼んでね?ダーリンっ」


「ん?ハニーって?奥さんて意味じゃないの?」


「さすがダーリンっ英語少しわかるの?」


「お父さんがサッカー極めたらいつか海外行くからその時挨拶ぐらいは出来ないと……て、最近はカッコいいインタビューのためにて言ってたけど」


「真さんの英才教育は凄いね……そんな時からなんだ……やっぱりダーリンは凄いよ」


「りっくんでいいよ?ダーリンは恥ずかしいから……」


「わかったよっダーリンっ」


「わかってないじゃん!」


「(ふふふっ)はははっ」  


 お互いおかしくなり、笑い合った。一通り笑った後、涙目でシャルの口が開き、話を続ける。


「ダーリンのいけずっ出会ってまもなく両親に結婚の挨拶とか私の魅力、将来の設計をカッコよく英語で話して口説いてきたのはダーリンだよ?責任取ってもらわないとねっ」


「そ、そんなことしたの?」


「したんですよっこのこの!」


 そんなたわいない話を公園のお昼の鐘が鳴るまで話し、少しずつシャルと打ち解けていったのを今でも覚えている。


 それが今でも鮮明に、まるで昨日のことのように記憶に焼きついているのは未来に来て右も左も分からない自分を最後まで支え寄り添ってくれた彼女と過ごす1年だけの始まりの物語だったからである。


「さぁ行こうかダーリン?」


「え?どこに行くの?お姉ちゃん?」


「それはね?」 


――――――――――――――――――――


誤字脱字はごめんなさい。

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執筆ペースは週一投稿と少しゆっくりです。

10話から話が大きく動きますのでそちらまで読んで頂けると幸いです。

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