第6話「かくれんぼ」

 小学生の頃の話。

 俺達はよく近所の神社でかくれんぼをしていた。

 神社でかくれんぼをする理由は、俺達の暮らしていた地域には公園が殆どなくて、数少ない公園にはいつもの悪い中学生がいた為、小学生の遊び場と言えば神社や駐車場だったからだ。意外に思うかもしれないが、ある程度の敷地がある神社は木々も生えているし、それなりに遮蔽物があってかくれんぼに向いている。


「もーいーかい!?」


「まーだだよ!」


「もういーよ!」


「まーだだよ!」


 どっちだよ!

 と、心の中でツッコミたくなるが、複数人でかくれんぼをしていると「もーいーよ」と「まーだだよ」が一致しない時がままある。

 当時の俺達が決めていたかくれんぼのルールとして、探す側、所謂は三十秒毎に一度「もーいーかい」と訊き、合計三度訊いたら無条件で探し始めていい。つまり、隠れる側には最大九十秒の猶予がある。

 ちなみに、誰か一人でも三度目まで掛かった場合、隠れる側は全員必ず「もーいーよ」と答えて探す側にヒントを与える決まりだった。


「もーいーかい!?」


「………」


「………」


「………」


 二度目の問い掛けには参加している三人が三人共に無言だった。

 それを確かめた俺は神社の敷地内を探し始めた。

 だが、十分経っても二十分経っても誰も見つからなかった。

 そして…


 キンコーン、カンコーン…


『午後五時になりました。よいこのみんなはお家へ───』


 探し始めて三十分以上が経った頃、その日の遊びのタイムリミットを告げるチャイムと放送が流れた。

 すると…


「おいおい、ちゃんと見つけてくれよな!」


「チャイム鳴っちゃったじゃんかよ」


「つかお前、目大丈夫か!?」


 いくら探しても見つからなかった隠れていた三人が当たり前のように俺の前に現れた。

 これは後で聞いたのだが、三人は其々俺が何度も探しに来ては気付かずに戻っていくので不思議に思ったのだという。

 特にその内の一人は明らかに俺と目が合ったと言い、俺がわざと見つからないふりをしていると思ったらしい。

 だが、そんなことはない。

 俺は真剣に探したし、見つけていたなら「見っけ」と言うつもりだった。

 それなのに俺は友達からは見られていたのに、俺には友達が見えていなかったのだ。

 この事があって以来、俺達は神社でかくれんぼをするのをやめ、缶けりをすることにした。

 缶けりにした理由は、缶けりならば鬼が隠れている人間を見つけられなくても隠れる側が動けるからだ。

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