A015『保健室せんせーの秘密の個人レッスン・そこダメよと言われても腰に手を回すが吉の巻』(28分で1357字)

A015『保健室せんせーの秘密の個人レッスン・そこダメよと言われても腰に手を回すが吉の巻』(28分で1357字)

【学園モノ】桜色・サボテン・静かな殺戮


 今年も桜が咲き乱れた。


 テノルの通学路は上下左右どこを見ても桜色に染まった。初めて見た日はこれが都会かと感動したが、時を重ねるごとに感動は薄れて、今では虚しさにすげ変わった。


 こいつらはたったの一ヶ月を飾るために全てを捧げる哀れなクローンだ。過去の人間が作りあげた給仕種族。これが当たり前だと疑いもせず、自らが正しいと信じきって、そのままで死んでいく。


 今日の朝の挨拶担当は保健室の先生だった。白衣でなければ生徒と見間違えそうな、小さな身長と気さくさを併せ持つ。


「よおしみったれボーイ、今年も桜を見てるね」

「おはようございます。桜は見てないですけどね」

「そのようだったね。気づいてないみたいだ」


 保健室の先生は世界征服計画でも企てたような顔で見送った。また何かイタズラでも仕掛けていると思って、ここからは桜の木を警戒して進んだ。これまではあちこちに顔を彫って人面樹の噂を立てたり、別の植物の葉を差し込んで気づいたやつにこっそり吸わせたりしていた。


 学校の七不思議に参加するために、何年もいろいろやっているらしいが、未だ初任の頃と同じ日々を続けている。教室へ向かう前に、三年のソプラノ先輩に話を聞きに行った。彼女も保健室の先生に気に入られていて、同時に学校の七不思議の研究家だ。


「先輩、保健室の先生って今回は何をしでかしました?」

「大問題だ。実はまだ正体が掴めていない。いよいよ奴の野望が叶うかもしれないぞ」

「はあ。意味深なことを言って実は何もない、なんてオチな気がしてきましたね」

「奴を甘くみるな。これまでの非業の数々を思い出せ。必ず仕掛けてくる」


 大袈裟だなあと言って、現実だと言われて、お互い自分の教室で朝の会へ臨んだ。先生が転校生の話をする。いつの間にか増えていた机も合わせて、きっと今は廊下で待っている。


 入るよう呼びかけても、答えがなかった。おかしいと思ってもう一度、今度は扉が開いて、入ってきた。


 緑の全身は縦に波打つ凹凸があり、多数の棘が並ぶ。とげとげの肉体に抱きつかれると、だれであっても桜色の中身をぶちまけてしまう。奴は学校の七不思議への予選参加資格を手にしている。


「彼はサボテンマンくんだ。三年二組にも同じ奴がいるから間違えるなよ。席はテノルの隣に置いた。みんなよろしくな」

「ギショショショ! サボテンマンだぜぇぇ!」


 サボテンマンはメキシコの熱い風を思わせるステップでテノルの席の隣へ歩み寄った。途中で、テノルが気に入らん不良同級生のバッグを足の棘で切り裂いていた。


「どうも。僕はテノル。よろしく」

「ギショショショ! よろしくマンだぜぇぇ! お前が保健室の先生のお気に入りか。せいぜい気張ることだな。いつまで生きていられる? 今のうちに遺書を書いておけよ。ちょうどこの後の国語の授業で、遺書の書き方講座を行う。ヒヨッコも安心ってわけだ。感謝しろ」

「わかったよ。ご丁寧にどうも」


 タイムリミットは五分限りだ。休み時間のうちにソプラノ先輩と相談して、二体のサボテンマンを倒す術を見つけなければならない。さもなくば保健室の先生にもっと気に入られてしまう。


 こんどこそ本当に学校の七不思議に加わられてしまうかもしれない。


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