A003『怪物狩りの専門家』(50分で1892字)

A003『怪物狩りの専門家』(50分で1892字)

【大衆小説】暁・フクロウ・先例のないカエル


 アルトは依頼の場に着いた。相棒のフクロウと共に、周囲の調査を始めた。


 小さな村で、作物の実りは季節を加味しても痩せている。緑豊かでありながら、収穫は故郷の砂漠地帯にも劣る期待しかできない。それでいて、建物はそこそこに発達している。平年ならばもっと豊かに実る。だからアルトが呼ばれた。説明との矛盾はまだない。


「これが本当に、カエルのせいだと?」

「そうですとも。あの化け物が現れて以来です」


 村長はしきりに化け物カエルの話をしていた。大きさは大人の握り拳を五人分で、食欲が旺盛で、冬でも構わず練り歩く。


 最初はアルトが砂漠育ちだからと騙そうとしているように思っていた。適当に理由をつけて依頼料だけせしめる準備もある。案内されるとおりに見てまわり、後に奥まで調査へ出て、足跡を見つけた。疑念が逆方向への確信に変わった。ここには本物がいる。


 まずは宿に戻った。初日の調査報告を聞きたがる者が集まっている。


「どうでした、アルト先生」

「まずは生息圏を把握します。今日はいる場所の目星をつけたので、明日に絞りこんで、明後日に引きずり出す。これが今回の計画です」


 村人の顔が明るくなった。噂の化け物カエルがあと二日の命と知り、仕込みに二日かかる業種が早くも祝いの準備をしている。


「万全を期すため、皆様の協力も要請します。変な噛み合わせで誘導に失敗したら振り出しですから」


 アルトは香草の名を書き出していった。これらの香りが流れ出ると影響があり得るので、明日の正午からは控えるよう指示する。


「ご存知なのですか? あの化け物がどんな存在か」

「いいえ。ですがこういう動きの生き物は大抵、これで引っかかります。多くは念のためで、これらとは別の理由があったなら新たな情報になる。長くに渡って、皆様の子供たちが大人になってもなお守り続けるため、たくさんの情報が欲しい」


 数人の懐疑的な顔を引き下がらせた。アルトは宣言の通りに解決する。退路を自ら断つ。信用を作るためだ。


 アルトは泥臭く歩き回り、フクロウが上空から見下ろして、移動路を特定した。足跡の崩れ方で経過時間がわかる。武器の手入れも済んでいる。片付ける。


 街道の側にある、開けた地点を暁に通る。他の地点の候補と比べて、ここが最も隠れにくい。


 深夜にアルトはやや遠くを陣取った。仮眠のとき、顔を向ける先を朝日の方角に合わせる。起きたらすぐに軽食を腹に詰めて、特定した地点を目視する。


 来た。


「行け」


 アルトの短い指示を受けて、フクロウが飛びかかった。背中側の死角から迫り、接敵と同時にアルト自身の姿を見せる。


 化け物カエルは警戒心をアルトに向けた。代償として背中が無防備になり、フクロウの一撃を受ける。攻防一体の金属の爪が標的を狩人の前に追い立てる。


「グゲーッ! 俺様を狩ろうとは、やるな人間!」


 アルトは喋り声を無視して片手剣を振るった。この手の連中は必ず、意思疎通の余地を見せてくる。アルトに聞く耳はない。すなわち、隙もない。


 カエルの目玉を剣先が掠める。的確に柔らかい部分だけを切り裂いて、反撃の可能性から封じ込める。


 反射的な行動で、カエルは飛び跳ねて蹴りを放つ。片目を失ってもまだ半分は見える。アルトは刀身の側面で衝撃を逸らし、着地までにフクロウが次の一撃を加える。


 カエルは透明な瞼を持つ。水中ゴーグルの役目があり、今回は剣から残りの目を守る策として目を覆う。アルトは目敏く、フクロウの爪の効き方を見ていた。


 傷が浅い。化け物カエルは例に漏れず皮膚が異常に頑丈らしい。個体数に対し影響力が高くなる理由だ。土着の動物も、人間も、必ず対処しようとしてはこれで阻まれる。


 ならば柔らかい部分を狙うのみ。


「うおーっ!」


 アルトは大声によって肉体を守る安全装置を外す。人間なら誰にでもある機構で、大声によって一時的に身体能力を引き出せる。負担も大きいので多用は禁物な技を、使うべきここで使う。


 片手剣の先端が化け物カエルの口から尻まで貫通した。まだバタバタと抵抗を見せるが、動けば体内が抉られる。もちろん剣には毒が塗られている。カエルが動かなくなるまで待ち、沈黙したら目を完全に潰してから他の臓器も破壊して片付けた。


 その過程で粘液を放出していた。アルトは足跡が控えめになるよう細心の注意を払って浴場を借り、全てを流してから村長への報告を済ませた。


 報酬はすべて先払いになっている。名声をまたひとつ増やし、田舎の村を後にした。


A003『怪物狩りの専門家』(50分で1892字)

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