第6話「絶対だめです!」
一瞬にして二人を無力化した少女の動きは実に鮮やかだった。あの体格でできる行為ではない。彼女が見た目通りの存在でないことを表しているようだ。
それなりの腕を持つであろうリーダー格も、あまりの事態に叫ぶことしかできない。残った三人は、完全に少女へと意識が向いていた。
「おいおい……」
思わず感嘆したリュールは、もう一人の弓を持つ男の背後に回り込んだ。警戒することさえ忘れていたようで、いとも容易く腕を首に回すことができた。男は間もなく、泡を吹いて倒れ込んだ。
「だめですよ!」
落とした弓を拾いあげようとしたリュールに、少女が叫んだ。その手には、矢が数本握られていた。
「だめなのかよ」
「絶対だめです!」
彼女はどうしてもリュールに武器を持たせたくないらしい。これは武器としての独占欲なのだろうか。
「ひ、ひえええ」
残された長剣の男は、情けない声を上げてフラフラと走り出した。あまりの出来事に戦意を喪失しているようだった。戦う気がないなら、このまま逃がしてやるのもいいかと、リュールは軽く考えていた。
しかし、少女は違ったようだ。無言のまま手にした矢を投げつける。
「ぎゃっ!」
右の太ももを矢がかすめる。男はバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。あれでは、しばらく立ち上がることはできないだろう。
「て、テメェ!」
語彙を失ったリーダー格が、少女の背後から斧を振り上げた。
「後ろ!」
リュールの叫びより前に、少女は動いていた。振り向きながら斧を避け、その勢いのままリーダー格の首筋を矢で切りつけた。
「がああああ」
派手に血を撒き散らすリーダー格を尻目に、少女は倒れた男の元まで走る。取り落とした長剣を、背中に突き立てた。実に容赦のない対応だ。
「ふう、終わりました」
倒れた五人の男たちは、恐らく傭兵崩れの野盗だ。体格や武具を見る限り決して弱くはない。大剣を持ったリュールであれば、なんとか無傷で倒せる程度だろう。
それを少女はほぼ一人で無力化した。辛うじて息のある男も、間もなく命を失う。
丸腰の男と少女が相手という油断をついた初手から、立て直す時間を与えない戦い方。一連の行動は、リュールが思い描いた理想通りだった。自分の分身とも思えたほどだ。
改めて、この少女は普通の少女ではないと実感が湧く。言葉だけでなく、その行動がリュールの剣であることを示すようだった。
「リュール様、お怪我はないですか?」
白い肌と銀髪を返り血で染めた少女は、リュールに向け可憐に微笑みかけた。
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