短編小説集。ショートショート

原氷

第1話ジャンヌとジャン

 修道院に入って、神様の僕になった。

 朝の起床、そして食事、掃除、聖書の勉強

 ジャンヌは模範的な修道僧だった。彼女が庭に出て、庭の手入れをしているところに、ジャンが通り過ぎ、彼女のまばゆい美貌にほれぼれとした。

 ジャンは何とかあの修道僧を虜にさせたいと、薔薇を盗んでは、彼女のところに放り投げた。

「あら、何かしら。薔薇」

 ジャンヌは気が付き、そっと手にした。


 ジャンは泥棒だ。盗んで、盗んで、生きていた。彼の家庭は悲惨なものだった。恋をしたことがない彼は、女性の美貌に見惚れて、薔薇園から薔薇を盗み、ジャンヌに届ける。

「何とかして、あの女性をものにしたい。こんな思いは初めてだ」

 ところがジャンは、警官につかまり、尋問を受け、数々の悪行を追認された。

 もう万事休す。何も抵抗できない。

 その時代、盗みは重い罪だった。ジャンは、一生独房の中で過ごした。

 そしてジャンヌはある日、薔薇が投げ込まれない日々に憂いを感じていた。

「どなたがこの薔薇を毎日届けてくれたのでしょう。きっと貴公子のように気高い方なんだわ。でもわたしは神様に仕えるしもべ。もう心に決めたの」

 一人は独房に、一人は修道院に。二人は孤独の中に、互いを求めた。

 ジャンは独房から、外を眺めた。あの輝かしい世界に理想の恋人が息をしている。それだけで幸せだった。

 ジャンヌもまた、素敵な男性が、自分のことを思って、毎日薔薇を届けてくれたことに涙した。その二人の心を認めた神様は、二人が亡くなった時、神の国に家を建て、二人は永遠に結ばれました。

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