第5話 〈あなた〉への視点 ① 〈あなた〉が生きている「現実」 (from あなたの知らない「現実」 あるベトナム技能実習生の物語)

※現在某出版社から商業出版予定で執筆中の拙著『あなたが知らない「現実」 あるベトナム技能実習生の物語」(小説)のまえがきです。


●〈あなた〉は、野菜を買ったことがありますか?



 唐突な質問。

 今、私からこんな質問をされた〈あなた〉は、戸惑っているかもしれません。

 でも、ぜひ一度考えてみて下さい。 


 場所……。

 野菜を買った場所は、どこでもいいです。

 スーパーマーケット、

 商店街の八百屋さん、

 コンビニ、

 道の駅、

 もしかしたら、農家の無人販売店なんてこともあるかもしれません。


 とにかく「野菜を買う」ということは、〈あなた〉にとって特別なことではなかったはずです。

 

 〈あなた〉の日常の一部。

 特に意識もしない行為。

 なんら〈特別〉ではない。

 

 だからこそ、すぐに〈あなた〉の答えを出すことができるのではーー「買ったことがある」と。



 では、次の質問です。



●〈あなた〉が、野菜を買うときに何を気にしますか?



鮮度?

見た目?

味(これは食べてみないとわかりませんが……)?


当然、これらについても考えるでしょう。

でも、やはり気になるのは〈値段〉ではないでしょうか?

 

まずは〈安くて〉、そして〈美味しい〉野菜。

 

そんな〈安くて美味しい野菜〉があれば、〈あなた〉は、すぐに買いたくなるでしょう(もちろん、私も買いたいです!)。


さて、この〈安くて美味しい野菜〉は、まさに理想的な野菜です。

しかも、日本では、この理想的な野菜を普通のスーパーマケット等で簡単に手に入れることができます。そして、これは〈特別〉なことではない〈あなた〉の日常の一部になっています。



●〈あなた〉は、この理由について考えたことがありますか?



これが、〈あなた〉への最後の質問となります。

あまりにも当たり前のことだから、考えたことがないかもしれません。だから、ここであらためて考えてみて下さい。


高度に発達した流通網?

革新的な農業技術?

 

確かに、これらも理由の一つにはなるでしょう。

でも、これらは〈理由の核心〉ではないです。

〈あなた〉が、〈理由の核心〉に触れたければ、インターネットで『農業』『技能実習生』とニュース検索して下さい。そして、ヒットした記事の一つ一つに目を通してみれば……



「コロナ禍で技能実習生が入国できないことにより極度の人手不足状態に陥っている農家」



 ――という日本の「現実」の一端が見えて来ると思います 。


野菜の収穫も十分にできず売上が減少する。

収穫できなかった大量の野菜が、そのまま畑で腐っていく……。


いくら流通網や農業技術があったとしても、野菜を育て収穫するのは〈人間〉です。

そして、今や日本においてその農業を担う〈人間〉は、日本人ではなく外国人〈技能実習生〉。


これが、日本の「現実」なのです。

つまり、〈あなた〉が〈安くて美味しい野菜〉という理想的な野菜を日常的に買うことができているのは、外国人〈技能実習生〉の存在が大きいということです。

そして……


 

外国人〈技能実習生〉は、安い賃金で長時間働いている。


 

だからこそ〈あなた〉の日常に〈安くて美味しい野菜〉という理想的な野菜があふれている。

〈あなた〉に、この「現実」に気づいてもらいたい。

そして、これは野菜(農業)だけでなく、外国人〈技能実習生〉が関わる全ての分野の「現実」です。

 

さて、ここからがこの本の本題です。

 

この本が、野菜の話から始めたのは、〈あなた〉の日常に外国人〈技能実習生〉が関わっていることを理解してもらいたかったからです。



〈あなた〉と外国人〈技能実習生〉は、無関係ではない。



まずは、この〈視点〉を持ってもらいたい。

〈あなた〉の中には、外国人〈技能実習生〉について「聞いたこともない」「聞いたことはあるが、よくわからない……」という人も多いと思います。むしろ「聞いたこともあるし! よく知っているよ!」という人の方が少数でしょう。


それでいいです。


この本は、そんな〈あなた〉に向けて書いたものです。

私が〈あなた〉に伝えたいのは、外国人〈技能実習生〉を通じて見えてくる日本の「現実」です。


 

〈あなた〉が知るべき日本の「現実」



日本が、声高に「グローバル化」「多文化共生」を叫んでいるその足元にある「現実」を知る。


この「現実」は、ひどく澱みあるもの。

この「現実」は、ひどく無関心なもの。

この「現実」は、ひどく残酷なもの。


この本は、外国人〈技能実習生〉を通して日本の「現実」を知ることを目的としています。

つまり、この本は、〈技能実習生〉問題のみを〈あなた〉に伝えることを目的としていません。


もっと大きな〈視点〉=日本の「現実」を〈あなた〉に伝えたい。 


ただ、外国人〈技能実習生〉問題は、日本の「現実」を知るのに適しています。その理由については、〈あなた〉が、この本を読み進めるにつれ、見えてくると思います。

〈あなた〉は、この本で様々な〈視点〉に出会うでしょう。

 これら〈視点〉は、この本に出てくる〈彼女〉ら〈彼ら〉の〈シセン〉の先にあるもの、あるいは、そのものかもしれません。


それらは、〈あなた〉が、この本を読み終える頃には、〈あなた〉自身〈視点〉となっているでしょう。その〈視点〉とは、社会学的想像力(Sociological Imagination)と呼ばれるものです。

もし、この社会学的想像力を手にしたなら、〈あなた〉は、これまでとは異なる「現実」に触れることができるはずです。


〈シセン〉の先にある〈視点〉の存在。



では、まずは、彼女の〈視点〉から始めます。

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