【WEB版】灼熱の魔女様の楽しい温泉領地経営 ~追放された公爵令嬢、災厄級のあたためスキルで世界最強の温泉帝国を築きます~

海野アロイ

第1章 魔女様の温泉開拓! ド辺境の貧しい村を温泉で元気にする

1.魔力ゼロの公爵令嬢、ユオ、辺境に追放される

「まさか辺境に追放された私が、温泉で独立国家を作るなんてね」


 目の前には山々から湯けむりが立ち込める壮大な景色。

 その下には異国情緒のある街に明かりが灯り、にぎわいを見せている。

 

 沢山の人が行き交う様子を眺めながら、私は感慨にふけっていた。

 今では優秀な仲間たちと楽しくやれているけれど、幾度となく試練をかいくぐってきた。


 目をつぶれば昨日のことのように思い出される。 




 私、ユオ・ラインハルトは魔法第一主義を掲げるリース王国の公爵家の子供として育った。

 後で知ったことだけど、私と家族には血縁関係はない。つまりは養子だ。


 当主である父親は魔法の才能のあるものを重用する一方、才能のないものには厳しい人物だった。

 

 それは子供の接し方にも如実に現れていて、魔法の才能ある子供は溺愛された。

 

 魔法の才能のない私は冷遇され、辺境の地へと追放された身分なのである。



「役立たず」


「無能力者」


「政略結婚の道具にすらならない」


 幼いころから魔法が使えなかった私はいつもそう言われてきた。


 魔力を第一に考える貴族社会ではつまはじきにされる存在だった。


 そして、16歳のスキル授与式で「ヒーター」のスキルを授かった時、家族からの白眼視は最高潮に達した。

 私はその時の様子を今でもしっかり覚えている。


 場所はスキルを授与するスキル神殿。

 どういうわけか、その場にはリース王国の有力者たちが集っていた。





「ユオ様のスキルはヒーターです。対象をいくらでも温められる能力ですよ! しかも、クラスは【灼熱】と出ています!」


 神官の女の子は嬉しそうな顔をして私のスキルを宣告する。


 しかし、『ひぃたぁ』なんて能力を誰も知らないらしい。

 辺りは静まり返って不穏な空気が漂う。

 対象を温める能力なんて聞いたことがないし、灼熱って何のクラス分けだ。



「ひぃたぁ? しゃくねつ……??」


 訳のわからない能力だけど、私には心当たりがあった。


 物心ついた頃には、私の両手はいつだって温かかった。

 氷を握っても冷たいどころか、ものの数秒で溶かしてしまうのだ。

 汗っかきというわけでもないのに、手に持つものがなんでもほかほかになってしまう変な体質。


 兄からは、いっつも「やかん女」とバカにされていた。

 私だって好きこのんでこんな体質なわけじゃない。


 っていうか、私を悩ませてきた謎現象はこのスキルの予兆だったわけ!?



「な、なんだ、そのスキルは!? ヒーラーじゃないのか? 魔法は使えるのか!?」


 戸惑う家族はすがるように聞き直す。


 しかし、神官さんは「いいえ、ヒーラーではありません!」ときっぱり。



 あぁ、ヒーラーじゃないのかぁ。

 これで最後の望みが潰えた。

 がっくりと肩を落とす傍らで、神官の女の子は言葉を続ける。


「このスキルは魔力に頼らずいくらでも発動できるものです。触ったものを好きなだけ加熱させることもできます。熱探知も熱耐性もありますし、火炎も吹雪もなんのその! まさに古竜みたいな能力ですよ!」


 神官の女の子は空気が読めていないのか、この素っ頓狂なスキルについてぺらぺらと話し出す。

 古竜みたいなんていわれても、16歳の乙女が喜べるわけないじゃん!



「ええい、そんなものかまどと同じではないか。成人しても魔法が使えないとはなんたることだ!」


「父上の言うとおりだ! 温める能力など、なんの役に立つんだ!」


「ラインハルト家の面汚しめ!」


「ははは、やかん女にはお似合いの能力だな」


 激昂する父親と冷笑する三人の兄。

 私が魔法を使えないことを知っている親族たちも、口元に嘲りの笑みを浮かべていた。


 この三人兄弟、性格は最悪だけど、魔法の腕はピカイチ。

 長兄なんか魔法剣士とかいうレアスキルの所持者だ。

 彼ら三人は魔法第一主義のリース王国の守りの要なんて呼ばれている。


 父親や兄たちからのひどい言い分に、何も言い返すすべをもたないのが今の私だ。


 だって、いきなり変なスキルを授かってしまったのだもの。

 魔法が使えない私には、人間としての価値はないと言われているかのようだった。



「そんなことありません! ユオお姉さまはこんなことで負けません!」


 ここで、どこからともなく大きな声を出す女の子がいた。


「ミ、ミラク!?」


 彼女の名前はミラク・ルー。

 大きな帽子をかぶった彼女は私の魔法学院での同級生である。

 私はどういうわけか魔法学院にて彼女に『お姉さま』呼ばわりされているのである。

 もちろん、血縁関係はない。

 

 うわっちゃあ、こんな場面を友達に見られるなんて、ばつが悪すぎる。



「お姉さまはとんでもないことをする人物なのです!」


 彼女はそう言うと、すたすたと神殿から出ていってしまう。

 突然の出来事にみんなが固まってしまう。

 かなり気まずい。



「ひひひ、なんだあの変な娘は? 公爵様、魔力ゼロとは縁談も苦労するでしょう。どうしてもというなら、わしの妻としてもらってやってもいいですぞ」


 膠着した空気を破るのはまたしても空気の読めない人物だ。

 親族の一人である伯爵のおっさんがふざけたことを言って、ひひひと笑う。


 彼の名前はローグ伯爵。

 この国の有力者の一人だ。

 でっぷりと太った中年男性であり、年の差もかなりある。

 こんなのにもらわれるのは勘弁してほしい。



「ご心配には及びません。これの処遇はもう決めてあります。この娘は今後、ラインハルト家からは勘当し、ヤパンの領主として派遣いたします。まぁ、派遣とは名ばかりの永久追放ですが」


 そして、父は私に厳しい視線を向けて、とんでもないことを宣言する。


 つまり、追放。

 それも、二度と戻っては来れない辺境送り。



 気づいた時には、最果ての大地の領主として住民100人足らずの村へと追いやられることが決まってしまっていたのだった。

 魔力ゼロの娘なんぞ厄介払いというわけなのだろう。


 私はこう見えて格闘技は得意だったし、政治の勉強だって頑張ってきた。

 だけど、魔法第一主義の父親からみたらそんなものは何の価値もないらしい。


 勝手に私の運命が決まっていくのを見ながら、私は「はぁああーっ」と大きなため息をつくのだった。





 

「ユオお嬢様、私もお供させていただきます!」


 しかし、意外なことが起こる。


 私の専属メイドのララがどうしても一緒に行くと言ってきかないのだ。

 彼女は家事全般をこなす優秀なメイドで、容姿端麗、スタイルよしの満点女子だ。


 うちに入って1年の新入りながら、家からの信任も厚い。

 最近では体調の思わしくないメイド長の補佐までしている。


 優秀な人材であるララを道連れにするのは忍びない。

 私はダメだと一度は断る。


 私と一緒にいてもいいことないと思うし、気持ちは嬉しいけど申しわけないじゃん。



「なにをおっしゃってるんですか! お嬢さまのあるところに、ララありですよ! そもそも、こんな千載一遇のチャンスを逃してどうするんですか!」


「チャンスって、あんた。どっからどうみても勘当からの人生詰みコースでしょうが!」


「だ・か・ら、いいんですよ。とにかく、もう決めたことですから。私は地の果てまでついていきますからね。本当は他の執事もメイドも行きたがってたんですよ!」


 ララがすごい剣幕でまくし立てるの。

 気迫に押された私はもはや打つ手なしと彼女を連れていくことにした。

 普段はクールビューティのくせに、たまにハイテンションで押しの強いメイドなのである。



「っていうか、勘当されちゃったから、私はもうお嬢様なんかじゃないんだけどね」


「それもそうですね! では改めて、ご主人様と呼ばせていただきます!」


「呼び名の問題じゃないんだけどなぁ……」


「ふふっ、ご主人様様!」


「様は一回でよろしい」


「はいっ!」


 軽くため息の出る私。

 とはいえ、ララの熱意あふれる瞳にはこれ以上、反論できない。

 私は苦渋の決断で、ララの辺境への同行を許可したのだった。



 そして、追放の当日、家族にお別れの挨拶を行う。

 涙目になっている執事・メイドたちもいる一方で、父親と兄たちはまんざらでもない顔をしている。


「いいか、お前はもうラインハルト家とは関係がない。いっそのこと、そこに国でも作って永住してもかまわん! ヤパンなど、どうせ誰も関心のない土地なのだ!」


 父親はそう言って私の完全追放を宣言する。

 渡された路銀も少々しかない。


「それはいい、誰も住みたがらない辺境の土地ですからね!」


「田舎の野蛮人どもを率いて、死ぬまでモンスター討伐でもしていろ!」


「ははは、さらばだ。不出来な妹よ!」


 兄たちは今生の別れだというのに、信じられない罵声を浴びせてくる。

 その声を背中に受けて、私とララは二人で歯嚙みしながら街を出たのだった。




 こうなったら絶対に見返してやるんだから!


 辺境だかなんだか知らないけど、世界で一番豊かな都市を作って、独立国家でもなんでも作ってやるわよ!


 にっくき父親と兄たちに対して、心の中で啖呵を切る私なのであった。

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