2014年11月4週②

「ただいまー。」


今日は珍しく帰してくれた。

絶対泊まっていくと思ったけど。

泊りは料金が跳ね上がるんだね。

…………。

最近わたしに対するお金の使い方が変わった気がする。

…………。

別にいいんだけど。

好きじゃないし、お金を使ってほしいとも思わないけど。

なんか、違和感。


「おかえり。」

「うん、ただいま。」


えっ!


「えっ!」

「おかえりちーちゃん。」

「な、なにしてたの?寒いよ?」

「あやちね、今日街にお出かけしてたの。」

「え。」

「クリスマスのこと調べるために 。ちーちゃんに驚いてもらうために。内緒でお出かけしてたの。」

「…………。」

「……。おめでとう、ちーちゃん。」

「え。」

「……。言ってくれればよかったのに。彼氏ができたって。あやち、邪魔だったでしょ?」

「そんなこと!そんなことない!」

「髪切ったのって、あやちのじゃないんだ。あの彼氏さんなんだ。」

「…………。」

「なーんだ。あやち、嬉しくて弾けそうだったのに!……。一人で勝手に喜んでただけなんだ。」

「そんな。」

「…………。ねえちーちゃん。聞いてもいい?」

「…………。」

「髪を切ったのはあやちのじゃないよね?」

「…………。うん。」

「そうだよね。だって、ちーちゃんから告白されてないもんね。うん、だからあやちが勝手に喜んでたのはあやちのせい。ちーちゃんが謝ることじゃないよ。」

「そんな。」

「でもね。もう一つ聞きたいことがあるの。こっちはあやち怒ってるよ。」

「…………。」

「なんでちーちゃん。悲しそうなの?辛そうなの?」

「えっ。」

「ここのところずっとそうだった。なんか悲しい顔してた。でも、あやちとの将来のこと考えて、結婚のこと考えて、 日本の法律のこと考えて、それに悩んでると。勝手に思い込んでた。」

「…………。」

「そこに関してもあやちが悪いよ。もっとちゃんとちーちゃんの話を聞けばよかったって。」

「…………。」

「でも、他に悩むことがよくわかんなかった。だって、辛いけど研究は楽しいって言ってたから。それ以外に最近変わったことなかったから。」

「…………。」

「なんで黙ってたの?」

「…………。あやちが悲しむと思って。あやちが離れて行っちゃうと思って。」

「…………。あやちのこと心配してくれたの?」

「…………。」

「ありがと。それはすごく嬉しい。でもね。あやちはちーちゃんの一番の理解者なんだよ?恋人の前に理解者なんだよ?なんであやちを頼ってくれないの?」

「…………。それは。」

「あやちが、彼氏の一人や二人で簡単に離れると思ってたの?」

「それは……。」

「でも、そうだよね。思ってたから、言えなかったんだよね。じゃあこれも伝えきれなかったあやちが悪いよね。」

「…………。……………………。」

「あやちが悪いの。全部あやちが悪いの。ちーちゃんのことが好きって言っちゃったあやちが全部悪いの。」

「…………。そんなこと…………。」

「ちーちゃんは何一つ悪くないの。だから、お願い。話して。これ以上、ちーちゃんが、悲しい、…………、かなしい顔してるの、見て、られないから、…………。」

「………………。」


街が寝静まった夜。

わたしもあやちも普段は寝ているような時間。

寒い寒い廊下で。

気づいたら泣いてた。

どっちからなんて分かんない。

2人で泣きはらした。

声をあげて泣いた。

…………。

声をあげて泣くのなんて、いつぶりだろ。

自分の声にびっくりした。

急に我に返ってきた。

…………。

あやちの声が響く。

こんな声初めて聴いた。

わたしのために泣いてくれてる。

わたしのせいで声を上げてる。

ごめんね、あやち。

こんなふがいないわたしで。

こんなわたしを好きになってくれて。

…………。

あ。

そっか。

これが「好き」なんだ。

人のために涙が出てる。

あやちがそうなってるように。

わたしもそうなってて。

なるほどね。

………………。

止めようと思っても止まらない。

ドンドンあふれてくる。

体温で暖まった涙は、わたしたち二人を濡らして。

一瞬だけ二人を暖める。

とめどなくあふれる涙が、わたしたちを永遠と暖め続けた気がした。





「ねえ、あの人に家の場所バレてるんだけど。どうしよう。」

「大丈夫。用心棒雇ったから。」

「用心棒?」

「高いよ?」

「高いの?」

「なんてったって、ちーちゃんの寝顔の写真300枚が報酬だって言われてるから。」

「へ?」

「ちーちゃんが寝てる姿、あやちあんまり見れないから。相当至難の技だよね。」

「……。ごめん、話が見えてこないんだけど。」

「……。お兄ちゃんにさ。頼んだの。」

「えっ。」

「あやちの家族ってさ、あやちにみんなデレデレだから、ちょっと無理なお願いも頑張ってかなえてくれちゃうの。」

「はあ。」

「だから、お兄ちゃんを部屋の近くに置いといたから。これからしばらく、ちーちゃんの部屋護ってくれるよ。」

「あの、お仕事は?」

「仕事なんてしてないから頼めたんじゃん!」

「え。」

「正確には、YouTuberやってて、滅茶苦茶自由利くの。だから、大丈夫。」

「えー。でもお兄さん一人じゃ。」

「なんかYouTuberの仲間連れてくるって。『良い企画になるわ!ありがと!』ってむしろ感謝されちゃった。ほら。」

「……。ほんとだ。」

「だから、安心して。 ね?ちーちゃん。」

「うん。」

「おやすみ、ちーちゃん。」

「……。寝ないよ?」

「うん。」




「おはよ、ちーちゃん。」

「ん?ここは……。廊下?」

「そうだよ。おはよ、ちーちゃん。」

「え、おはよ。」

「さて、あやちの足がそろそろ限界なので、どいてもらってもいい?」

「え?うん。」

「んあー!痺れが、あー!ちーちゃん!助けて!」

「いや、助けてって言われても。」

「ちーちゃんのせいなんだからね!ベッドまで連れてって!」

「はあ。仕方ないな。」


御姫様抱っこして、あやちをベッドまで運ぶ。

あれ、何で廊下にいたんだっけ。

……。

あー。

うわ。

うわー。


「にゃわっ!」

「あ、ごめんあやち!」

「ら、乱暴だ。彼女が乱暴だ。」

「乱暴って。……じゃなくて、その。ごめんね。」

「いいよ。別に落ちたのベッドの上だし。」

「そうじゃなくて。そっちじゃなくて。……。」

「いいよ。謝らなくても。あやちこそ、ごめんだよ。全然理解できてないくせに『一番の理解者だ!』なんておかしいよね。」

「それは……。」

「だから、お互いさまってこと。もう謝っちゃだめだよ!」

「…………。うん。」

「でね。ほじくり返して悪いんだけど。なんでこんなことになってたの?」

「あ、えーっと。話すと長いんだけどね。」

「いいよ。この話が切りつくまでどうせちーちゃんは家から出してあげないんだから!」

「ああ。ほんと。ご、……ありがと。」

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