2014年7月2週

「安藤、もう夜遅いし送ってってやるよ。」

「えー、別にいいですよ。そんな遠い訳でもあるまいし。」

「いやいや、それで何かあったら俺の責任になっちまうから。」

「いやでも、自転車あるんで。」

「じゃあ明日の朝も送ってきてやるよ。」

「いや、でも。……。」

「おお、もう断る理由がないやつやな。よし、行くぞ。」

「…………。はい。」




「どっか飯でも行く?」

「いえ、家にご飯あるんで。」

「おー、さすが女子大生だねー。何食べるの?」

「別に大したものじゃないですけど。昨日作ったカレーがあるので、それ食べます。」

「いいなー、俺も今日はカレー食おうかな。」

「いいんじゃないですか?CoCo壱ですか?」

「ん-、そこでもいいけど。なあ安藤、俺も食べていい?」

「え、何をですか?」

「安藤の手料理。」

「…………。もうわたし一人分しかないので、ちょっとすいません。」

「あちゃー。残念。じゃあせめて一緒に食べていい?」

「はい?」

「だってさ、外食してもコンビニで買っても一人で食べるんだぜ。じゃあ二人で食べたほうが美味しいじゃん。」

「はあ。」

「というわけで、どう?」

「いえ、わたし一人が好きなんで。」

「おいおい、そうやってつれないこと言うなよ。友達とはよく一緒にご飯食べるだろ?」

「友達とは食べますけど。」

「じゃあ俺とも食べようぜ。」

「先輩は……先輩なんで。ちょっと……。」

「は?先輩とは飯食えんって?」

「……。そういうことじゃないんですけど…………。」

「……。じゃあいいよな?」

「…………。じゃ、じゃあ、一緒にカレー食べに行きます?」

「お! 良いの?家にあるんだろ?」

「別に今日食べきらないといけないわけじゃないので。」

「そっか。そうだよな。よし!じゃあちょっと遠いけど美味しいカレー屋があるから行くか!」

「え、あ、ちょっと……。」

「ん?」

「あの。あー、今日は早く帰って母と電話しなくちゃいけないので…………。」

「別に車の中ですりゃいいじゃん。俺気にしないぜ。」

「いえ、さすがにちょっと家族の問題なので。人に聞かせられないので。すいませんが近場でお願いします。」

「ん-、しゃねえなー。じゃあ今回だけな?」

「……。はい、ありがとうございます。」




「なあ、安藤。俺たち付き合わねえ?」

「え、なんですか?」

「いや、これまで一緒に研究してきたじゃん。今日は一緒に飯も行ったじゃん。俺らめっちゃ仲良しじゃん?」

「…………。」

「俺はもうその『仲良し』から脱却したいわけ。どう?」

「『どう?』と言われましても。」

「いや、ごめんな。直接面と向かって返事するの恥ずかしいよな?帰ってからラインで返事してくれてもいいから。いい返事待ってるな。」

「…………。」

「お、緊張して声も出ねえか。嬉しい悲鳴ってやつか?ごめんな。俺急に告白して、嬉し涙流すの見るのが好きなんだ。」

「…………。」

「おし、じゃあこの後は俺は何もしゃべらん。ゆっくり車の中で答えを考えてくれ。」

「…………。」




「じゃあな、安藤。また明日な。いや、また夜な。」

「お疲れ様です。」


最悪だ。

滅茶苦茶最初から告白する気満々だったじゃん。

やんわり断ってるのに。

気づかないもんだなー。

はあ。


でも。

あれ?

最悪なの?

今のって最悪なの?

久しぶりだったけど、こんな感じだっけ。

告白されるって。


あれ?

感じ方変わった?


男かー。

彼氏かー。

うーん。


今なら。

悩んでる今なら。

付き合ってみたら分かるかもなー。

『男』が良いのか。

『女』が良いのか。


先輩には悪いけど、試させてもらおう。

わたしの心を。

…………。


「prrrrrr。prrr。はい、もしも…………。」

「あ、すいません。美容院の予約をしたいんですけど…………。」

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