2014年5月2週

「誕生日おめでとー!ちーちゃん!」

「ありがとー!ふー!」

「わー。…………。よーし、じゃあケーキ食べよ?」

「えー、ちょっと急ぎ過ぎだよあやちー。もっと風情をさ。」

「はい、ちーちゃんの分!」

「あー、写真撮ってないのにー!切るの早いー!」

「大丈夫!あやちが写真撮ってあるから!」

「えーっ!ん-。あー、まあいっか。あとで写真送っといてー!」

「はーい!」


あの花見から約1か月。

あやちがうちに遊びに来る機会が確実に減ってる。

連絡も少なくなってる。

別に遊ばないわけじゃない。

中身のない、どうでもいいようなラインがない訳でもない。

でも、どこか、空虚。


今日も、誕生日ケーキを持ってきてくれたけど、ぱっと見今までと変わらないんだけど。

よく見ると笑顔じゃない気がする。

気のせい…………?

考えすぎ…………?

だって、あやちはわたしのこと好きで。

わたしのこと愛してて。

わたしの返事を待っててくれて。

待っててくれて…………。


『「ねえ、助けて。あやち…………。」』


自分の言葉なのに、どこか自分の言葉じゃないみたいに頭に反響してくる。

あんなこと言うキャラじゃないのにな、わたし。

もっとお気楽にならなきゃ。

あやちも気が滅入っちゃうよね。

お気楽で、能天気で、おっちょこちょいなわたしが好きなんだもんね。


「ねー、ちーちゃん?」

「ん-?何?」

「無事22歳を迎えましたけど、今年の目標は何かある?」

「えー、今年?22歳でしょ?ん-。」

「別にそんな大きなことじゃなくてもいいよ!小さいことでも、何か一つ目標をもって達成出来たら嬉しいじゃん!」

「なるほど。たしかに。じゃあー、うーん。………………。」

「………………。」

「ん-。…………。あ。」

「何か思いついた?」

「前々からやりたいと思ってたけど、踏ん切り付かなかったことがあってさ。」

「おー、いいじゃん!今年こそはそれを達成しよー!で、何?」

「わたし、ラジオがやりたい。」

「へっ?ラ、ジオ?」

「そう。ラジオ。わたしラジオっこだからさ。」

「え、なにそれ!?初めてきいたよ!」

「そりゃ、誰にも言ったことないし。」

「えー、ラジオかー。え、あの、どうするの?」

「どうしたもんかなー。個人ラジオならさ、動画配信サイトにでも投稿すれば立派なラジオパーソナリティだね。」

「え、じゃあちーちゃん、YouTuberになるの?」

「あー、たしかにそうかも。YouTuberかー。わたしもついになってしまうのかー。」

「ちーちゃん頑張ってね!」

「え?」

「へ?『え?』って?え?もしかして。」

「あやちも。」

「無理無理無理無理!あやちラジオ聞いたことないもん!」

「大丈夫! !わたしがちゃんとリードしてあげるから。」

「え、いや、ちょっと、え、考えさせて。」

「…………。ぷっ。んくくくふふ。」

「あ、ちーちゃん!もー!」

「ごめんごめん、冗談。ラジオは好きだけど、ラジオやるのはちょっと荷が重いかなー。」

「もー!結構本気で悩んだんだからねー!」

「ごめんごめん。」


ホントは、結構本気でいつかラジオやってみたいけど。

あやちとなら楽しいかもだけど。

ちょっと無理っぽいねー。

こーいう、ラジオなれしてないタイプがわたわたしてるのを聞くのが、楽しいんだけどね。


ま、あやちが笑ってくれたしいっか。




「じゃあまたねー。」

「はーい、気を付けて帰んなね。」

「だいじょーぶだよー。家近いんだから!」

「油断してるときこそ、何かあるかもしれないよ?」

「毎回のことだけど、さすがに大丈夫!学生街なんだから!」

「まーね。一応言ってるだけだから。」

「えー!それはそれで何かイヤ。ん-。 ちゃんと気持ち込めて言って!『気を付けて』ってちゃんと言って!」

「なんてめんどくさい…………。気を付けてね。」

「うん!おやすみ!」

「はいはい、おやすみー。」


いつも通りの挨拶をしてあやちが帰っていった。

だいぶ前までのテンションで終われたと思う。

たぶん……。

明日からの大学生活も、とりあえず何気なく過ごせそう。

たぶん…………。


…………。

プレゼントなかったな…………。

誕生日を祝ってもらうだけで嬉しいんだから、あんまりこっちからねだるのは良くないけど…………。

大学生どころか、高校生の時からずっともらってたのに。

今年だけもらえなかった…………。


どうして…………?


忘れてた?

ケーキを予約してくれてるあやちが忘れてるなんて、説明つかない。


用意してなかった?

ケーキ予約して、プレゼントだけ用意し損ねることなんて、あやちに限ってない。


忘れてきた?

それなら、言ってくれるはず。

『忘れてきちゃったから明日渡すねー!』なんて。


選べなかった?

選べないならそれなりに『一緒に買いに行こー!』って言うはず。たぶん。


渡したくなかった?

せっかく用意したものを渡したくないなんてある?

ないことは…………ないか…………。

でも、考えにくい…………?ん-。わかんない。


渡せなかった?

渡すタイミングはいくらでもあったと思う。

じゃあ、渡しにくいものだった?

渡すかどうか、ずっと悩んでた?


どこか浮かない表情してたのは、そういうこと?

今日もずっと考えてたってこと?



考えても埒が明かない。

ダメだ。

いくら考えても結局あやちの心なんて理解しきれない。

しかも今はめちゃめちゃぐちゃぐちゃになってるはず。

理解したくてもできない。

…………。

やめよ。

誕生日会は楽しかった!

それでいい。

寝よ。

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