2014年2月4週②

「ごめーん、あやち。お待たせー。」

「…………。寒かった。」

「寒いなら、一回シャワー浴びればよかったのに。」

「それは勿体ないし。一人でシャワー浴びたら、ちーちゃんが洗ってくれないかもって思った。」

「そんなことしないよー。約束したじゃん。わたしがあやちの体洗うって。」

「でも、それは!あやちが勝手に!言い逃げしたことだから……。」

「もー、なんでそんな暗い声なのー?ちゃっちゃと洗うよ?」

「…………。」

「いやー、あやちの髪は長いねー。夏に切るとかなんとか言ってたけど、結局切ってないよね?」

「ちーちゃんは髪は長いのと短いのどっちか好き?」

「えー、わたしは短い方が楽って前に「じゃなくて!」、え?」

「あの、ちーちゃんは、あやちの髪は、長い方が好き?短い方が好き?」

「んー。なんでそんなこと気になるの?」

「だって、あやちの髪が短い方が好きなら、短くしたいもん。ちーちゃんが好きな方にしたいもん。」

「そっかー。そうだねー。わたしはどっちも好きだと思うよ。」

「…………。ホントに?」

「ホントも何も。まずあやちの短い髪見たことないから比較できないし。あと、髪が長くても短くてもあやちはあやちじゃん。」

「…………。ありがと。」

「別にお礼を言われることはしてないけど。はい、一回泡を流すから、目瞑ってー。」

「…………。ぅん。」

「痒いところはないですかー?」

「…………。ある。」

「ん?どこ?わたしが掻いてあげよう! 」

「ここ。」

「えっ。えっとー。頭で痒いところは?」

「ない。ここだけ。痒くて、もどかしくて、ざわざわしてる。」

「ん-、じゃあ、どうしたらいい?掻いたらいい?」

「…………。ん-ん。撫でてほしい。ちーちゃんの指で撫でてほしい。」

「先にコンディショナーした方が良いかなーなんて、思うんだけど…………。」

「いい。こっちが良い。」

「じゃあ体も一緒に洗うね?」

「ぅん。」


美容院さながらに、頭で痒いところ聞いたつもりだったんだけど。

あやちが導いたのは、胸元。

2つのふくらみの間。

谷間。

わたしより大きいそれ。

さすがに意識しない方が無理がある。


体も洗うことになってしまったので、背中から。

好き嫌いを一回置いといても、すべすべの肌は触ってて気持ちいい。

わたしと違って、美容には気を遣ってるから、これだけきれいなんだろうなー。

良いなーと思うけど、メンドイなーが先行しちゃうから、わたしには到底たどり着けないもち肌。


腕。

体が小さいのもあると思うけど、細い。

本当に細い。

ちょっと力を入れたら折れちゃいそうな腕。

指先までしっかり洗う。

爪も手入れ頑張ってるよね。

こういう手入れって男を捕まえるためにやってると思ってたけど。

単純に好きだからやってるのか、それとも……。


胸。

さっきわたしの手を導いたあの場所。

脇からゆっくり前に手を滑らせていく。

あやちの体はどこを触っても柔らかくて気持ちいいけど。

特に柔らかいところ。

なるべく意識しないように、あえてむぎゅっと力強くかつ繊細に。

エッチにならないように。

揉むというよりも、撫でる。

撫でるというよりも、触れる。

途中、硬くなってる部分があったけど、そこも同じように触れる。

他と違う意識は持たない。

体を洗ってるだけだから。

時折あやちから声が漏れてるのも、お風呂でリラックスしてるだけ。

ただそれだけ。


体全体をシャワーで流したら、最後にコンディショナーを刷り込んであげて、髪をお団子にする。


「はい、終わったよー。わたしも洗うから湯船で待ってて。」

「……。ねえ、ちーちゃん。」

「ん-?早く入っちゃいなよ。」

「あやちが洗ってあげる。」

「え?」

「同じことしてあげる。」

「あー。…………。お願いします。」


断り切れなかったー。

ん-。

いや別にどっちでもいいといえばどっちでもいい。

むしろ、人に洗ってもらうってなかなか無いから、お願いしようとは思ったりもしたけど。

体はちょっと……。

今の状況考えると、ちょっと……。

任せていいのかな……。


あー、こういう時は髪が長い方が良かったと思う。

もうだって、一瞬で髪洗い終わっちゃうもん。


あー、あやちの手が背中を走ってる。

背骨を撫でられて、気持ちが粟立つ。

手に力がこもる。

息が止まる。


腕を撫でられる。

リンパを流すみたいに、ギューッと力を込めて肩から指先まで。

手のひらと指の間を、あやちの両手がうねうねと撫でまわす。

それは『洗ってる』になるのか正直分かんないけど。

丁寧に丁寧にまとわりつく。


そして、脇から前へ手が伸びてくる。

おへその周り。

ぐるぐると円を描くようにお腹を撫でる。

…………。最近ポッコリしてきてる気がするから気をつけなきゃ。

ゆっくりと円を描きながら、上へあがってくる。

さっきまでは手の平全体で撫でてたのに、胸は指先だけで円を描く。

ゆっくりゆっくりその円が小さくなってくる。

わたしの硬い突起にむかって円が小さくなる。

いつの間にか視界が暗くなってた。

目をつむってたらしい。

体全体に力が入る。

手の指も足の指も、ギュッとする。

太腿が閉じる。

体全体で衝撃に備える。

もう触られる。

あと1cmとかそれくらい!きっと!

おもいっきり息を吸う。

息を止める。

心の準備をする。


手が止まった。

あやちの指はその部分には触れず止まった。

わたしが期待していたことは起きず、あやちの手が離れて、代わりに頭からシャワーがかけられる。

暖かいはずのシャワーは、冷や水を浴びたみたいに冷たく感じた。


わたしの髪もコンディショナーをつけてもらったら、二人で湯船に入る。

わたしはお団子にしなくても、髪はお湯につからないので、このまま。

わたしが先に入って、足の間にあやちを入れる。


「あー、あやちのお団子邪魔だなー。」

「え。じゃあ髪切ったほうがいい?」

「そんなこと言ってないじゃん。もうちょっとわたしの邪魔にならない縛り方すればよかったなって。」

「……。そう。」


あー。

ワイン用意してたんだった。

お風呂入っちゃった。

ここから出るわけにもいかないし。

まあいいや。


「ねえ、あやち?」

「…………。」

「そろそろ落ち着いた?」

「…………。」

「……。わたしもね、あやちに相談しなきゃいけないことがあるかもしれないからさ。」

「ちーちゃんも?」

「うん。でもそれってさ、あやちの相談次第でどうでもよくなるかもしれないの。だから先に喋ってよ。」

「…………。」

「ほら、早くしないと2人そろってのぼせちゃうよ?救急車呼ばなきゃいけなくなるよ?このまま救急隊員におんぶされて「それは嫌!」……。……。2人そろって裸見られちゃうかも……。」

「…………。」

「ねえ、あやち?喋れないならさ、こっちから質問して良い?」

「…………。」

「あやちはさ、わたしのこと好き?」

「ちーちゃんのことは好きだよ。じゃないとこんな風に毎日一緒に「じゃあさ。」…………。」

「じゃあさ。どういう風に好きなの?親友みたいに好きなの?」

「…………。」

「ありゃ、親友じゃないの?わたしもさすがにショックだよ?」

「ちーちゃん。分かってて聞いてない?」

「はて、わたしとあやちは、からかう側とからかわれる側の関係だから、こういう風にしか聞けないなー。」

「いじわる……。」

「今更だよねー、わたしがいじわるなんてのはさ。それじゃ、攻撃にならないよ?」

「…………。」

「あやちはさ、わたしの事、どう好きなの?言ってくれないと分からないよ?」

「家族みたいな……。」

「家族かー。姉妹?それとも親?子供?」

「そうじゃなくて……。」

「うーん。じゃああとは何?他の家族って何?」

「…………。か……かの……じょ……。」

「彼女かー。わたしはあやちの彼女なのかー。むしろあやちの方が女の子で、わたしは彼氏ポジションじゃない?」

「そういうことじゃなくて!」

「分かってる。『恋人』ってことでしょ?」

「……うん。」

「いつから?」

「分かんない。でも、高校生の時はなかった。」

「じゃあ大学入ってからなんだ?わたしのこと好きなんだ?」

「それもよくわかんない。」

「ありゃ。」

「ちーちゃんが彼氏が欲しいって話をすると、『そこらの男なんかにちーちゃんの事分かるわけないのに』って思っちゃって。『絶対あやちの方が知ってるのに。』『あやちの方がちーちゃんと楽しく遊べるのに。』って。まだいない、ちーちゃんの彼氏に嫉妬してることに気づいて。ちーちゃんが好きなのかどうかは分かんなくて。でもちーちゃんが他の人と、男の人と付き合うのは嫌で。想像したくなくて。だから。」

「なるほど。自分で言うのも恥ずかしいけど、それはあれだね。独占欲だね。そして、それは恋をすればある程度当然出てくるものだね。」

「え、ってことは。」

「たぶんあやちは、わたしに恋してるね。」

「…………。」

「なんであやちが恥ずかしがってるのー! 自分でこんなこと言ってるこっちの方が恥ずかしいんだけどー! 」

「たしかに!ちーちゃんってやっぱり変だね!」

「あやちに言われたくないけどね……。」


「あのね、ちーちゃん! 」

「あやち、わたしからも一つ言わなきゃいけないことあるって言ったじゃん?」

「え?」

「あれさ、今回の場合あやちに言わなきゃいけないことでさ。ちょっと聞いてもらってもいい?」

「…………。うん。」

「そう怯えないでよ。怖いことするわけじゃないんだからさ。」

「…………。」

「正直、最近気になってたの。あやちの言動。怪しすぎたよ?でもさっきお風呂入る前に考えてたの。さすがに確信できたなって。あやちがわたしの事、友達の意味じゃなくて好きなんだろうなって。」

「…………。」

「ただ、結論聞くまでは早とちりかもしれないからと思って、今あやちに話してもらったの。そしたらビンゴじゃん。『やっぱりな』って気持ちと、『マジでか』って気持ちが今ぐしゃぐしゃなの。全然気持ちが追い付いてないの。だって、ついさっきまで誰か男と結婚して子供産んでいく人生を考えてたから。」

「…………。」

「だから今、答えを出せない。ごめんね。今までさんざん弄んだくせに、いざ迫られたらひらりとかわしちゃうみたいで。」

「…………。」

「でも、じゃあ、いつになったら答えが出るのかも分かんない。自分のことでも、未来のことは分かんないから。」

「…………。」

「そんな悲しい目しないで。『付き合おうか』って言っちゃいそうになる。」

「じゃあ……。」

「でもそれはダメ。」

「え……。」

「そうやってその場の勢いだけで返事をするのは、あやちの大切な恋心を無下にしてるのと同じ。だから、ちゃんとわたしがあやちを迎え入れれるようになったらわたしから告白したい。それでもいい?」

「…………。期限は?」

「大学を卒業したら、今までほど遊べなくなると思うの。それまでにその気持ちができなかったとして、じゃあ卒業してから会わなくなって急に好きになるって難しいと思うの。」

「じゃああと……。」

「そう。あと約1年。それまでに、あやちがわたしをどう墜とすか。かな。」

「1年…………。」

「うん。1年。たぶん、あっという間だよ。もちろん、付き合わないってなったからって、卒業しても時間見つけて遊ぶよ。だってわたしとあやちだから。」

「…………。」

「あやちが頑張らなきゃ、友達のままになっちゃうよ。」

「むー。ちーちゃんのいじわる。」

「あー、そういうこと言うんだー! あやちの事好きになれないかもなー。」

「あーん、だからー、いじw……。むー。ちーちゃんのいじわるー!」

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