第三章 悪鬼王の蟲毒街
01-01 零番地
僕たちはみんな、しばらく声が出せなかった。
薄紫色、夜明けみたいな暗さの
その中に、煌々と輝く街。
変わり果てた
アジア1の歓楽街だった時よりも、遙かに大きく。
まさしく
「……すごい、
マンホールを押し上げ、
たしかに、見かけはそんな感じだった。
ビルの上にビルを継ぎ足して、時折バラックを混ぜて、いい感じに商店をトッピングして、どこから入るのか、出るのか、まったくわからなくする……。
でも、その規模が途方もなかった。
視界を城砦が埋め尽くしている。
城砦というより……街そのものが、一塊のビルと化している。あるいは、一塊のビルが街そのものとなっている、って言ったらいいんだろうか?
端から端まで歩いたら、軽く半日はかかるんじゃないかって大きさ。
延々と街まで続く一本道には、ぽつり、ぽつり、ナトリウムランプがあやしげに赤橙色の灯をともし、僕たちを静かに誘っているようだった。
周囲を、いかにもポストアポカリプスって感じの廃墟、半分以上が瓦礫と化した繁華街の荒野に囲まれながら、傷一つなく、城砦はそびえている。いや、周囲の廃墟も街の一部として取り込んでいるようにさえ見える。
生きている。
この城砦は、生きて呼吸をしている。
そんなことさえ、思う。
ゲーミングPC並みに発光しているデパート、九鬼城砦壱番街ってでかでかと書いてある巨大ネオン看板に、ちょっとしたビルぐらいある茸がまき散らす体に悪そうな紫色の胞子……
……すべてがばらばらで、
真新しい感じのタワマンっぽい建物があったかと思えば、読めない漢字ネオンをぶら下げた
テクノロジーはないのかな、と思いきや、ケーブルにアンテナはあちこちに生えていて、大きなネオンの1つはなにかのIDとパスらしきものを表示してる。GGIDってなんだ?
そう、
ここは
踊る
走る
ATMらしきものに並ぶ
自販機らしきものを殴っている
その
その誰もが、クラスで一番うるさい小学生の3倍ぐらいのボリュームで、ぎいぎい、があがあ、げらげら、嗤っている。
そして、争う音。
剣の打ち合わされる音。絶叫、悲鳴、歓声。爆発音。銃声。銃声。また銃声。そしてまた嗤い声。
そんな街の音が荒野の風に乗り、僕らの鼓膜を揺らしている。
そして、遠くの方にはっきり見える。
天を突くほどに巨大な、2つのグロテスクな塔。
先端は雲を突き抜け、見えない。
……単なる都庁が、こんなにも、3回見たら死ぬ画像としてSNSで回ってきそうな塔になるなんて、僕は少し、感動もしてしまう。
どれだけ見ても、新しい何かが見つかった。
どの箇所を見ても、ため息が出るほど細かなディテールがあった。気を抜けば僕は、1日中でもこの街を描写していられそうだ。
「……なんでまた、こんなデカい街を……」
僕のつぶやきを聞いたスライ・スライは、クケッ、と楽しそうに嗤って言う。
「説明したろう。ここはデカい必要があるのだ。いわば
「コドク……?」
「そう、
「コドクってなに? ゴブリンのなにか?」
「いや、貴様らの文化だと聞いたが?」
「……難しい方の蟲に、毒物の毒の、蠱毒ですよ」
と、リサさんがこっそり教えてくれてようやく思い当たった。たしかなんか、ヘビとかゲジゲジとかムカデとかをたくさん壺に入れて争わせて、生き残ったものには特別な毒が宿るのでそれを呪い殺したい相手に……的な呪術のヤツ。
「この中じゃ……ゴブリンが争ってるってこと?」
僕の問いに、スライ・スライは首を振り、横を指さした。
「言ったろう。ここでは全員が、全員に、戦争をしておるのだ」
遠くに見える街以外、辺り一面は瓦礫で、建造物らしい建造物はないんだけど……注意深く見てみると所々、瓦礫から何かが突き出ていた。近くに寄ってみるとそれは、なにか、石造りの門のようなものだとわかる。けど扉はないし、そもそも門のどちら側にも、なんの建物もない。とするとこれは……。
「そうか、これが君の話してくれてた、ワープゲート的な……?」
「左様。王の目的はこの地球の征服だが、そのためにあやつはまず」
と、スライ・スライが言ったところで。
門が光り輝き始めて、僕は慌てて後ずさり、スライ・スライが叫ぶ。
「来るぞ! 戦闘準備!」
「な、なにが来るんだよ!?」
「だから言ったであろう、蠱毒の中身だ八神のばかちん!」
「ここではそんなに戦闘は起こらないって話じゃなかったのかよ!?」
「そんなうまい話があるかばーか!」
石造りのアーチ門が白く光り、数秒もしないうちにその輝きは薄れていく。そして光が薄れていくのと同時にそこにあらわれたのは、ヘビでもゲジゲジでも、そして
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