第12話 のぞき見

 不本意ですが、昼御飯のコンビニで買ったカロリーバーを秒速で平らげ屋上を後にすると、一目散に学校二階の端っこにある多目的会議室にやってきました。


「これにて学校近隣地区清掃活動の事後報告会を終了する」


 来た時には昼休みも残り少なかったので、部長の一言で会議が終了し、私語の一つもなかった会議室内は一段と騒がしくなりました。


「暴言娘ちゃんは……」


[そこだ] 


 ミミックが三叉を室内に向けるのでそちらを覗くと、窓際最後列という席替えでは神のような席で、暴言娘ちゃんこと宍倉さんが熱心に冊子を読み込んでいました。


「いつ出てくるんでしょうか」


[集中度を見る限り暫くは席を立ちそうにはないが]


 とその時、当の本人は気づいていないようですが、宍倉さんにふたりの影が。名前は知りませんけど、あのふたりは今朝、宍倉さんに命令されて嫌々ながらあたしを生徒指導室に連行した女子生徒たちですね。


「ねえちょっと」

「し、宍倉さん」


 なんだかおふたりは有無を言わさぬ雰囲気です。長引きそうなので彼女たちの会話に耳をそば立てるとします。


「な、なに?」


「あんな言い方ないと思うんだけど?」


 どうやら、あたしを連行するときに宍倉さんが発した発言について言及しているようですね。ふたりのうちの片方はたいそうご立腹のようです。ですがこればっかりは自業自得なので宍倉さんに言い訳の隙はなさそうです。本人も下を向いています。


「……っ」


「友達でもないのに命令するならもっと優しくしてほしかったよねー」


「ま、まぁ。宍倉さんも生徒指導室でみっちり扱かれたみたいだしさ」


 隣の女子生徒が宥めます、ですが効いていませんね。宍倉さんはずっと机に置かれた冊子を見ています。これは女子生徒の癪に障るのも時間の問題。


「わたしは悪くない」


 宍倉さんがなんか呟いたようですが遠目からでは良く聞こえません。


「なんか言った?」


「お前らがあの不良をすんなり連れて行かなかったのが悪いくせにッ!なんでわたしが生徒指導室送りになんだよ!?全部お前らのせいだろ謝罪しろクズ!!!」


 あーあーあー、さっそくキレてらぁ。女子生徒の堪忍袋の緒が切れる前に宍倉さんが豹変。勢いつけて椅子から立ち上がり逆上しました。中には三人の会話を聞いていたのか、こいつマジかとあっけらかんとなる人もちらほら。


「あっ……」


 当の本人には我に帰ったのですかね、口を押えて呆然としていました。当然ながら腹を立てた女子生徒は、腹いせに机の冊子に掌をバンッと置いてぐちゃぐちゃにしてしまいました。


「おまっ……ッ!!」


「宍倉さんって、こんな風にすぐキレるからってクラスでも結構嫌われてんだよね?」


 おやおや、それは初耳ですね。


「自覚してんならその性格治したらどう?それとも、そんな自分カッコイイとでも思ってんの?」

「違う……」


 宍倉さんが何かしゃべっているようですが、小声過ぎて遠目からじゃよく聞こえませんね。

 

「はっ?聞こえない。図星ってこと?」


 女子生徒の声がヒートアップしたせいで、会議室中、いや、廊下からも野次馬が集まってますね。中には宍倉さんを見てやっぱりーとかコソコソと話し始める生徒もいます。


「違う……」


「あっそう。ならひとつ言ってあげる」


 女子生徒の方もかなり短気な性格のようですが、野次馬の非難の的は圧倒的に宍倉さんに向いてますね。これも日頃の行いの結果でしょう。


「マジダサくね?なんで学校来てるの?」


 女子生徒からキッツイ一言を浴びてしまった宍倉さん。当然、冷静でいれるはずもなく……


「違うって言ってんだよ!!!耳の穴に針でも詰まってんのか!?」


「あっ!?」


 やっぱキレましたね。女子生徒の方も負けず劣らずのキレっぷりを披露します。双方はもはや喧嘩腰で掴みかかる寸前。


「ちょっと二人ともやめようよ!」


 もうひとりの女子生徒がなんとかふたりの間に割って入り仲介していますが、いかんせん威勢が弱すぎます。これは殴り合い待ったなしですね。


「貴様ら何やってるんだ!!」


 あまりの騒ぎに部長が止めに入りました。ですが近くにいた先生も参戦。これは宍倉さんに接触するのは厳しそうです。


「って、今まで黙ってたクソ悪魔さんはなーに考えてたんですか?」


[おぉ……おぉ……貴様と出会ってから初めてだ。これが人間の鬩ぎ合い、憤怒と憎しみが連鎖する個人間戦争ウォーオブマウストゥマウス。素晴らしき負の感情の応酬!我には大好物……!!]


 何か興奮してますが無視しましょう。


[……のはずだったが、今は胸が騒いで仕方ないのだ]


「人間の生活に順応しすぎですよ」

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