第10話 見た目は子猫、中身はライオン……いややっぱ子猫?

 なんですか喧しすぎて耳塞いじゃいましたよ!中宮中に響きそうな濁声であたしたちを引き留めたのは、屈強な体躯をした生徒指導の先生……ではなく、青髪サイドテールの女の子でした。


 きっちりとしたワイシャツの上に深緑のセーターを着て、腰にブレザーを巻いた小柄な女の子。右腕には部長も時たまつけてる風紀委員の腕章がありますね。


 一目で子猫を彷彿とさせる可愛らしい見た目ですが、その威勢と声量の喧しさはライオンさんに匹敵します。昨日のナンパ男と声量対決でマッチングさせたいですね。


「ゴミ拾いサボって何しとんじゃいブチ◯すぞこらぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「なんだただの893でしたか」


「えっ、あっ、これは……その……」


 そうかと思えば、子猫のような弱弱しい声に様変わりしてしまいました。浮き沈みの激しいお方ですね。


[こ、彼奴は……]


「わたしは、ただの風紀委員……」


「風紀委員が死刑宣告なんてするんですか?しないですよね?つまりあなたは893」


「は、はぁ!?お前たちこそなんで校門前でゴミも拾わず惰眠を貪っているんだよ!!ゴミ拾いまだ終わってないだろ!!!さっさと持ち場に戻れ!!!〇すぞ!!!!」


「そういうあなたこそな~んでこんなところにいるんでしょうねぇ~?ぼっちでサボりですか?風紀委員なのにサボりですか~?」


「はっ……!えっと……わ、わたしは風紀委員の仕事でゴミ拾いに同行している生徒指導の先生方の代わりをしているだけで……もう少しで他の委員会も戻ってくるはず!」


「ていうか話戻しますけど~さっきあたしもことナチュラルに風紀委員にあるまじき死刑宣告されてましたけどぉ~。学園の風紀を護る風紀委員が自ら乱すような発言していいんですかぁ~?」


「そ、それは……訳が……」


「訳?訳ってなんですかぁ~?訳があれば風紀委員でも死刑宣告して良いって思ってるんですかぁ~?落ちぶれましたねーもぅ。酒咲上司がいないと鋼の風紀委員も無法地帯になるんですか~。言いつけちゃいますよ?」


「そ、それは……それは……」


[そのへんにしてやれ、風紀委員が半泣きになっているぞ]


 本当ですね。涙目の風紀委員ちゃんですが、線香花火のような威勢でもなおあたしの手を掴んで逃がしてくれません。風紀委員としてプライドでしょう。


「とにかく!遅刻と無断欠席は生徒指導室行きだから」

「あたしに死刑宣告した人の台詞ではありませんね~。どうです?一緒に行きますぅ~?」


「ぐっ!!!お前たちがいくらわたしを罵ろうがわたしがこの学園の秩序を取り締まるのは事実!!!大人しく首を切られたくなかったら生徒指導室へ行け!!!」


 表現がいつも怖いです。とそこへ、宍倉と同じ風紀委員の腕章を身につけた生徒二人が戻って来ました。


「戻ってきたよー」

「宍倉さん警備お疲れさ……」


「お前たちこの無法者をさっさ豚箱に放り込め!!!」

「えっ、せ、生徒指導室のこと?」

「そうだ早くもってけぶっ潰すぞ!!!!!」

「わ、分かったから、そんな怒らないでよ……」


 おっと、893味のある刑事のような威勢の風紀委員ちゃんに、巨大な筋肉の影が、


「し~し~く~ら~?」 

「あ?なん……せ、先生」

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