ずっと綺麗でいてあげる
春川晴人
美しい女
自分で言うのもなんだが、おれはブ男だ。二十四歳になった今でも、女性経験はない。
そんなおれへ、しつこくアピールしてくる女がいた。
男なら誰でも振り返るような美女。年齢不詳のその女とは、バーで出会って、誘われるも丁重にお断りした。
こういう場合、おれが女に保険をかけられて殺されるパターンでしかない。
ブ男にはブ男の流儀がある。身をわきまえない思いを抱けば、命がなくなる。
だいたい、そんな女がおれを口説く理由が他に見当たらないじゃないか。
おれはもう、そのバーに行くのを辞めた。
ところが、うっすらと煤で汚れた居酒屋にも、その女がいた。場違いにもほどがある。
おれはあわてて店を出ようとしたが、女の腕が蛇のようにおれに絡みついて離れない。
どうしたって目立つ女だ。今ここで、おれが女を振り解けば、ひどい男だとSNSにさらされないともかぎらない。
しかたなく、おれは女を連れて店を出た。
「なにが目的なんだ?」
外に出るなりおれは、警戒を強めながらそう聞いた。こわいお兄さんたちが側にいるかもしれない。気を抜いたらダメだ。
「なにって? 純粋に一目惚れしただけよ」
その言葉は本当か? それにはたして本当にそれだけなのだろうか?
「目的は?」
「あたしと結婚してちょうだい。あなたのためなら、あたしはずっと綺麗でいてあげられるわ」
その言葉を信じろと言う? 完全に女優みたいな女がおれにプロポーズしただって? そんなの、信じられない。
おれはまた、丁重にお断りした。
つづく
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