わくわく冒険家族号 吉田家のご飯の歴史

ズットイッショ

第1話

くつしたぶらぶら万国旗


はじめて部屋に入った瞬間、なぜか私は「あぁ、しあわせだぁ、、、、、!」とおもった。

全部おんなじ黒いビジネス靴下がずらーーーっと万国旗のように20個くらいロープに干してある。


へやはすごかった。「巣」だった。

床はあいているすきまがなく、鼻をかんではレジ袋に入れてくくってほうりなげてあった。テーブルの上はガンダムや山のような小さい車や、昨夜も飲んだと思える湯呑コップ、食べながら打ったのでいろいろこびりついたキーボード、など。


なぜこの散らかった部屋をみてしあわせとおもったのかわからない。


一番遅くて最速の出会いだった、と後に夫は言った。


結婚式の直前に人と分かれて、会社がつぶれて、しっかり手に職を付けようと老親のお金を借りて必死の思いで勉強した学校を落第して、10年以上できなかった告白をしてかなった恋は一緒には歩けなくて、からだをこわし別人になり、一年。


なにもかもなくして、ただようやくなんとか一日を生きて、明日も生きるためにご飯を食べていた。 春がきて、桜並木をあるいたが、寒く、誰もいない真っ白な世界を歩いている。こんな春ははじめてだった。

これまでは、「あんたがくると、とたんにうるさくなるからすぐわかる」と職場で笑われていたのである。


ある人に「あなたのこころはいま、ちいさくちいさくちぢこまっています。あなたをこころからリラックスさせてくれる人や物事に出会うまで」といわれた。
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る