第13話

 まさにエネルギー弾だった。エースストライカーの右足から躊躇いなく放たれた球が光の弧を描く。


 ぐにゃり。


 球が掠めただけで、外灯の太いポールが飴のように曲がった。次いで竜馬そっくりの馬鹿面下げて眺めていた一頭が、頭を吹っ飛ばされて仰向けに引っくり返った。


「おおっ、すげぇ!」


 竜馬はようやく身体の力を抜いた。とたんにスイッチを切ったように左右の刀から光が消え、すううっともとの両腕に戻った。


「選手交代な! しばらく頼む!」


 少しでも体力を回復させてから戦線復帰するつもりだった。━━が、そううまくはいかなかった。


「わ、あっ」


 二発目を放った拍子によろけた一巳の口から、めったに聞けない慌てた声が上がった。光弾はあらぬ方へと飛んでいき、数本の樹をなぎ倒して夜の闇に消えた。。

 三発目は飛びかかってきた一頭を木っ端みじんにしたものの、無駄に力を入れすぎたのだろう。消滅せずに竜馬の方まで飛んできた。


 一巳は竜馬以上に手こずっていた。光のパワーの加減が利かず、攻撃の軌道を思うようにコントロールできないのだ。武器が自分の身体と一体化している竜馬の方が、まだしも扱いやすいのかもしれなかった。


 体力回復どころではなかった。実戦が練習場になった展望台を、竜馬は逃げ回った。ある時は頭のてっぺんの毛を吹き飛ばされ、ある時は山犬の隣で熱風をまともに受け、鼻の頭を火傷した。


「へたくそかっ!」

「初心者はお前もだ」

「死ぬとこだったんだぞ!」

「死んでないだろう」


 山犬をすべて倒したというのに、二人は喜び合うどころか互いの胸ぐらをつかんで揺すり上げていた。

 と━━遠くで誰かが叫んだ。


「先輩たちーっっっ! ケンカしてる場合じゃないですーっっっっ!」


 声の主を確かめる間もなく、その誰かがまた叫んだ。


「うしろうしろ、うしろっっっ!」


 二人はつかみ合った体勢のまま、後ろを向いた。

 そろって顔を強張らせる。

 よもや、ラスボスがひかえていようとは!


 いったいどこから湧いて出たのか。さっきまで相手をしていた山犬たちの三倍はある巨体を、竜馬は見上げた。敵は後ろ足で立ち上がり、グリズリーのように威嚇してくる。

 二人は呼吸を合わせ、一瞬で離れた。

 竜馬が武器を呼び出すのに手間取っている間に、一巳が一発、二発と光弾を打ち込む。さすがボスだ。身体の一部を削られたものの、まだ立っている。


 これ以上、遅れをとってたまるか! と、竜馬が一巳の前に飛び出した。


(とどめは俺が!)


 ボスまでの距離が思ったより遠かった。

 もうあと半歩近ければ! 

 そんな竜馬の気持ちに呼応するかのように、刀が姿を変えた。槍状にグンと伸びた切っ先が、ボスの胸を刺し貫いた。

 つり上がった赤い両目から凶暴な光が消える。魂が抜け空っぽになった巨体が崩れ落ちるのを見届け、竜馬はその場にしゃがみ込んだ。一巳も隣で尻餅をついた。今になってドッと冷や汗が噴き出した。


 胸が凹むほど呼吸が荒れるにまかせた一巳が、伸び上がるようにして山道の方を見ている。


「……姫野……?」


 一巳の呟きに首を傾げて、竜馬もそちらを見た。


「やっぱり姫野だ。どうしてここに?」

「さっき叫んだの、あいつか?」


 山道の登り口に、腰が抜けたような格好で座り込んでいる人影があった。

 姫野飛鳥だ。なぜか彼はクリーム色のパジャマ姿で、枕をしっかり抱き抱えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る