第21話【奴からの電話はいつも間が悪い】

 数日後の夜。

 光一こういちから電話がかかってきた。


『どうだセレンは? そっちの世界に少しは慣れてきたか?』


 光一はまだあちら側、つまり異世界にいるので、そこから電話を掛けてきているのだが、いつもより早い頻度での連絡だった。

 俺がいるとはいえ、新妻でエルフのセレンさんを心配してのことだろう。


 だが残念ながら光一の電話はいつも間が悪い。

 今回はセレンさんが仕事で帰りが遅い日で、家には息子の俺だけ。 


「別に問題はないぞ。家事に関しては光一より全然役に立ってるから」


『そんな冷たいこと言うなよ~。お父さん悲しくなるでしょうが~』


 光一は不服そうに言うも、どこか嬉しそうなんだが。


『お前さん、なんか楽しそうだな』


「そりゃあ、ウザイおっさんと二人で生活するより、清楚で美人なエルフのお母さんと暮らす方が楽しいに決まってるだろ」


『言うようになったね~。例え息子でも、俺の奥さんに手を出したら全力で俺の超必で灰にしてやるからな』


 セリフに物騒な単語は並んでいるが、親父は笑っている。


『その様子ならセレンも大丈夫そうだろう。慣れない世界に慣れない仕事でちょっと心配だったが、明らかに以前より元気そうで何よりだ』


 俺がそうだからと言ってセレンさんも楽しんでいるとは限らないんだが、俺視点ではセレンさんはこちらの世界を存分に満喫中だと確信を持って言える。

 紫音のお節介という名のサポートのおかげでもあるんだが、『お前たち、もう付き合っちゃえよ』なんて言われるのが目に見えているので、ここは黙っておこう。


「セレンさんが元気でやっているのを確認するためにも、早く帰ってこいよな」


 俺は言ってやった。

 仕事だから仕方がないにしても、好きで結婚した者同士、離れ離れに長期間暮らすというのはセレンさんが可哀そうだ。

 光一は知らん。

 息子として母親を悲しませる行為は断固許さん。


『ああ、近いうちにそっちの世界に帰ってくるから、喜べ息子よ』


 光一が言った。

 果たして今度はいったいどんな異世界土産を持って帰ってくるのかと想像して嘆息が出るが、ようやく家族揃うことができる事実に自然と口角が上がった。


 光一との電話が終わり、俺はそのままスマホのネットラジオのアプリを起動させ、『フィーネの純愛』の最新回を聴き始めた。


 偶然にもパーソナリティのフィーネさんは友達とプールに遊びに行った話をしていて、先日のセレンさんとのプールでの出来事を思い出し、自身の体温が上がるのを知覚した。


 ――そういえばフィーネさんの声ってどこかで聴いたことあるような............って、きっと気のせいだよな。


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