第7話【腐れ縁同級生はクール系女子】

 男は優しくするとすぐ勘違いする。


 昔、に面と向かって直接言われたセリフだ。

 そりゃあ優しくされたら誰でも『この人、俺のこと好きなのかな?』と思うのが当然だろう。

 ましてや相手は恋愛経験が未熟で男子高校生成り立て。

 好きになった相手を疑う思考なんてこれっぽっちも持ち合わせていなかった。

 

 セレンさんの優しさは、あの人の計算と打算で構成された優しさとは真逆。

 天然にして純粋な思いからきていると俺は初日で確信した。

 でなければ昨晩のような行動はとれない。


 でもだからといって俺はすぐにセレンさんと仲良くしようという気になれなかった。

 種族は違えど所詮は大人の女性。油断はできない。


 この昼休み中の教室で、一見大人しそうに昼食をとっているあそこの陰キャな女子達だって、数年経てばあの人みたいになるかもしれない。

 それだけ女性という生物は迂闊うかつに信用してはいけない生物であると、俺の本能がそう告げている。


「......晴人はると、今日はお弁当じゃないんだね」


 窓際の自分の席でぼっちコンビニ飯を堪能している俺に、上から気だるそうな雰囲気の赤茶色のショートヘアの女子の視線が。


「なんだ紫音しおんか。まぁ、たまにはこういうのも有りかなと」

「ふ~ん」


 右目の下の泣きぼくろが特徴のこいつは『坂崎紫音さかざきしおん』といって、中学からこれまでずっと同じクラスの腐れ縁同級生。

 特に何かきっかけがあったわけではないが、気づいた時には毎日それなりに会話をする関係性になっていた。


「そうだ、近いうちにお前の実家の店に行くんでよろしく」

「は? なんで? 来てほしくないんだけど」


 隣の席の上に座った紫音の細い目が更に鋭くなり、怪訝な表情を浮かべる。


「来店予定のお客様にその言い方はないだろ。俺の知り合いで日本の喫茶店にとても興味を持っている人がいて、今度連れていく約束をしたんだ」

「別にウチじゃなくてもよくない? デートなら他の店にしてよ」

「お前嫌みか。俺に彼女がいないこと知ってるくせに」

「確かに」


 にやりと微笑しパーマのかかった前髪をいじる姿がどこか猫っぽい。

 

「......その人、女性?」

「そうだけど。付け加えると光一こういちの結婚相手」

「............おじさん結婚したんだ」


 普段はクールで冷淡な紫音が珍しく驚きの声をあげた。

 と言っても微々たる変化で、付き合いがそれなりに長い俺にしかわからないだろうが。


 紫音は中学の一時期、我が家によく遊びに来ていたので光一とは面識がある。


「急でビックリしたよ。しかもその結婚相手がさ――」

「......結婚相手が何?」


 そこまで言って俺は慌てて一旦口を閉じ。


「......結婚相手が海外の人でさ。光一の奴、息子を長らく放っておいていきなりこれかよって」

「ふ~ん」


 別に紫音になら話しても問題はないのだが、クラスの連中に聞かれるとかなり面倒なので敢えてこの場では誤魔化した。

 そのことに紫音は何かを察した風な視線を向けつつ言葉を続けた。


「......今度の日曜日だったら私、お店に出てるから連れてきなよ」

「営業スマイルが大の苦手なお前が店に立つなんて、明日ロ〇ギヌスの槍でも降るんじゃないか」

「うっさい。今どうしても欲しい物があるの」


 腕を組んでジト目で軽く睨みつけてくる。

 セレンさんまでじゃないが、こいつも結構肌白いよな......。


「了解。彼女の予定を聞いてみないと何とも言えないが、大丈夫そうなら行くよ」

「ん」


 そっけない態度で紫音は小さく頷く。

 出会った頃と何一つ変わっていないこいつは、何年経ってもこのままなような気がする......。

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