第18話 (勇者視点)ついに嘘がバレる

 鍛冶師の国『ローレンス』から出国した勇者ロベルト率いるパーティー。結局、『ローレンス』を訪問した結果、聖剣エクスカリバーを直せるものは限られており、その国に直せる者がいない事が判明したのだ。


 ロベルトからすれば無駄骨と言っていい、徒労に終わる結果になったのだ。


「……ねぇ。ロキはまだ帰ってこないの?」


 セリカにそう聞かれる。


 しかし、当然のようにパーティーメンバーからは不満が続出してきた。聖剣エクスカリバーを作ったのは鍛冶師のロキである。当然のように、彼なら修繕もする事ができた。


「うるせぇ! ロキ、ロキって! 同じ事を何度も繰り返すんじゃねぇ!」


 ロベルトは明らかに不機嫌そうに怒鳴り散らす。彼からすればロキがいなくなった事であいつなど不要だという事を証明し、自身の有能さを見せつけるつもりだったのだ。だが、現実はそれとは正反対の結果に終わっている。自身の無能さを露呈させ、そしてロキの有能さ、パーティーにおける重要性を見せつけられる結果になってしまっているのだ。


 ロベルトからすれば面白くない事この上ない。そして、ロベルトは何よりロキがパーティーに戻ってくる事がない事を誰よりも知っていたのである。それどころか、ロキはもうこの世にはいないのだ。実際は違うのだが、彼はそうだと思い込んでいた。


 何せ、自分の息がかかった者どもにロキを処分させたのだから。


「ちょ、ちょっと! 怒鳴らなくてもいいじゃないの!」


 セリカは耳を塞ぐ。


「ロベルト……なんかおかしい、あんた。情緒不安定すぎるわよ」


 ルナリアにも諫められる。


「……もしや、勇者ロベルト、あなたは嘘をついているのではないですか?」


「ぐっ!」


 フレイアに図星を突かれ、思わず口ごもるロベルト。



「ロキ様は本当に故郷に帰っているのでしょうか? まさか別の理由でパーティーを離脱されたのではないでしょうね?」


 冷徹な目で、フレイアに言われる。その眼は氷のような冷たい目で、全てを見透かされてしまっているかのようだ。恐らく、これ以上の嘘は通用しない。だが、ロベルトは誤魔化さざるを得なかった。


「……な、何言っているんだ。本当だぜ、本当にあいつは故郷に帰っているんだ」


「それでは故郷の場所を教えてください。そこまで行って確認させてください」


「……そ、それは……教えられねぇな」


 現地まで行って確認されれば、流石に嘘が白日の下に晒されてしまう。確固たる証拠を突きつけられてしまうのだ。


「なぜ教えられないのです?」


「そ、それは……その、あのよ」


「はぁ……やはり嘘なのですね。教えなさい。勇者ロベルト、本当はロキ様は今どこにいるのです?」


 ロベルトは鋭い眼光で睨まれた。殺気すら滲んでくる。


「うるせぇ! あんな鍛冶師の野郎なんて必要ねぇんだよ! このパーティーには勇者である俺様がいれば上手く回るんだ! もうあいつの名前なんて出すんじゃねぇよ!」


「……はぁ、もう限界ですね」


 深々と溜息を吐き、フレイアはどこかに行こうとする。


「ま、待ちやがれ! どこに行くつもりだ!」


「このパーティーを抜けさせて貰います。私はロキ様が目当てでこのパーティーに入ったんです。どうやらロキ様は戻って来られないようですし……」


「パーティーを出て行ってからってどうするんだよ!? あいつを探す宛でもあるのかよ! あいつが今、どこにいるのか、お前は知っているのかよ!」


「……やはり、思ったのですが、勇者ロベルト、やはりあなたはロキ様について何かを知っているのですか?」


 フレイアがロベルトに対して嫌疑の眼差しを向ける。


「ロキ様がパーティーを離脱されたのは自発的な行動ではなかった。あなたの差し金で不本意ながら離脱せざるを得なかったのではないでしょうか……そうだとすればあなたの言動にも説明がつく」


 図星であった。これ以上、嘘で誤魔化すのにも限界がある。


「……そうだ。その通りだ。俺はあのロキが今、どこにいるのか知っているぜ……何せ、全ては俺が仕組んだ事なんだからな。けけっ」


 ロベルトは開き直った。


「ロ、ロベルト……」


「ど、どうしてよ! どうしてそんな事するのよ! ロキが何をしたって言うのよ!」


 セリカとルナリアの二人も、驚きと憤りを抑えきれない様子だった。


「……んなの決まってるだろ! あいつが賞賛と人望を集めているのが気に入らなかったんだよ! 全部俺様のおかげでこのパーティーは上手く行ってたんだ! その事を証明したかったんだよ!」


「ゲスが……自らの虚栄心の為にロキ様を手にかけたというのですか」


「……へへっ……そうだぜ。その通りだ。思った通りには行かなかったけどよ……認めたくないけど、歯車が狂っちまったみたいだ。今からそのズレを修正していくしかないけどよ」


「教えなさい! ロベルト! ロキ様に何をしたのか! 今どこにいるのか!」


 フレイアは憤った。


「教えてやってもいいぜ……ただし、この俺様に勝ってからにしろ! 勝負だ! フレイア! 俺様と勝負しろいっ!」


「勝負?」


「俺様がもし負けたら、俺がロキに何をしたかを教えてやるぜ。今ロキがどこにいるのかも教えてやるよ! 俺様が勝ったら、俺様に絶対服従しろっ! 今後も俺様のパーティーでお前はメンバーとして活動するんだ!」


「くだらない勝負です……錆び付いた聖剣で一体何ができるというんですか?」


 ロベルトは聖剣を構える。錆び付いても聖剣は聖剣である。僅かではあるが輝かしい光を放っている。


「お前の剣も既にボロボロじゃねぇかよ……条件としては五分五分だと思うけどよ」


「その通りですね……良いでしょう。ロベルト。あなたを剣の錆びにしてあげます。そして、その上で一体なにがあったのかを洗いざらい、話して貰います」


「……へへっ。やってやるぜっ!」


 こうして、ロベルトとフレイアの闘いが唐突に始まったのだ。




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