第1話 火の精霊

 真っ暗な空間で目を覚ました。自身の手も足も見えない完全な闇。

 動こうにも手足が動かせ――いや、手足の感覚が無い。声を発しようとしたけど声が出ない。

 吹雪いているのかビュオオオと断続的に聞こえてくる。耳は生きているようだ。寒さも風も感じないのは室内だからだろうか。皮膚の感覚が無いのはなぜだろう。


「はぁ、はぁ……」ドサッ


 吹雪の音にまぎれて、遠くから雪を踏みしめる音と荒い息遣いが聞こえてくる。誰か来たようだ、っと倒れたのか音がしなくなった。助けてくれ、目がえないんだ。

 何かできることは無いかと考えた時、闇の中に文字が浮かび上がった。


『名称:未設定

 属性:火

 階位:1 (周囲を照らす程度)』


 火属性ということと、周囲を照らす程度ってことしか分からんな。照らす、ねぇ? と真っ暗なことへの皮肉かと思ったら文字が消え、今度は記号が現れた。


 ■■□


 何だこれ。お? 周囲1mほどが明るくなった。やっぱり雪上だ。吹雪は止まないのかな。

 と、視界が開けたことで自身が火の玉であることも判明した。直径1cmほどの小さな火球だ。ちょっとでも風が吹いたら消えてしまいそうなほど揺らいでいる。寒くもないし、痛みも何も感じないが大丈夫なのか?


 再びドサっと枝にたまった雪が落ちたような音が聞こえ、思考が中断された。そういえば誰か倒れたんだった。えーと確かあっちだったな、と見るも視界は1mほどで人は確認できない。もっとこう……一方向だけを見るように、と意識すると前方のみ4m弱視界が開けた。やってみるもんだ。


 うつ伏せに倒れた人は吹雪に晒され、雪の積もり始めている。ん? 茶髪の頭に三角耳がある。獣人というやつか。頭ほどではないが大きな尻尾も見える。人の事を言えた義理は無いが、吹雪なのに薄手の半袖で寒くないのだろうか。あいにく腕も足も無い火球では何もできないんだが。


 あの子を温めることができると良いな


 と考えると、火球の真下の地面から茶髪の子まで青白いジグザグ線がった。おお? 地面も光って良い感じなんじゃないか? と思った次の瞬間。


 ぼぉぉぉおおおおお!!!


 茶髪の子を青白く光らせてすぐ、見上げる程の青い火柱が勢いよく立った。

 え? あれ? 違うんです、燃やそうとしたんじゃないんです。信じてください!

と誰に言うでもない言い訳をソワソワしながら考えていると、青い火に焼かれた子がムクリと起き上がった。


 ごめんなさい、成仏してください。土下座でも何でもしますから!


「火の、精霊様?」


 しゃ、しゃべったー! 妙にハッキリと聞こえた声は幼い印象を受けた。

 あれ? 何で火柱の中でしゃべれるんだ?


――――――――――

円の面積:半径×半径×円周率

 1・1・π=x・x・30/360・π(円周率π、xは視野円の半径)

    x=2√3

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る