第2話 170m≧の巨人には巨人権がない

 佐竹が婚活パーティーに参加したあの日から170年が経ち、地球は巨人族が支配する惑星と化していた。


 未知のウイルスは佐竹と彼の同僚を感染源として世界中に蔓延まんえんし、それから170年が経過する中で人類の平均身長は172メートルとなっていた。


 ヒトの遺伝子に影響を及ぼすウイルスは世代を追うごとに人類の身長を伸ばし続けていったが、この172mという平均身長は生物としてのヒトの限界であると考えられていた。


 その一方でヒトの脳は172mの背丈をまかなえるほど高度ではなく、巨人族と化した人類はかつて原始社会と呼ばれた頃の生活に身を落としていた。



「今日は、俺、ミノスの肉、持って、きた。これ、焼く、おいしい、食べろ」

「分かった、私、後で、食べる。ありがとう」


 巨大化した野生の牛であるミノスを狩猟した男性の巨人は解体したその肉を持って村同士の交流会を訪れていた。


 美しい女性の巨人は喜んで肉を受け取り、男性の巨人も彼女の笑顔を見て喜んでいた。


「お前、俺、結婚する、良い。俺、お前、ずっと、守る」


 目の前の彼女を妻に迎えたいと思った男性の巨人は照れながらそう言ったが、


「私、身長、170、めとる、ない、男、好かない。その、男、人権、ない。別の、女、探せ」


 女性の巨人はミノスの肉を持ってその場を立ち去り、男性の巨人は落胆した。


 彼の身長は164mしかなかったのだ。



 男性の巨人は露店で買った酒を飲んで帰宅している途中に野生の巨大ライオンに襲われ、彼はその命と次世代に受け継ぐ遺伝子を失った。

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