第3話「相討ち」

 どんぐり目で魔王を睨む、ずんぐりした『おっさん勇者』

 対して、怨念と殺気の籠った凄い目でにらみつける痩身&長身のやさ男は……数多の物語で勇者のライバルとして登場する……『魔王』である。

 

 魔王は100年前、突如この世界に現れた。

 彼は最初は単にひとりの魔族に過ぎなかったが……

 すぐに圧倒的な強さを発揮し、何人もの猛き魔族どもを従えると、強力な魔王軍を編成する。

 やがて魔王軍は、魔族どもが暮らす地をあっという間に席巻し、一大王国を築き上げた。

 

 だが魔王の野望は、それで終わりではなかった。

 彼は更に勢いに乗って、人間をも従えるべく、怒涛の進軍を開始した。

 この世界を全て、混沌とした魔族の王国にしようとしていたのだ。


 しかし進軍はあっさり止められた。

 魔王同様、これまた突如現れたこの『おっさん勇者』によって、魔王の部下は全て倒されてしまったのだ。

 邪悪なたくらみは、今まさに潰えようとしていた。


 残ったのは……

 魔王自身、たったひとりきりであったから。


 ちなみに、この魔王……

 見る誰もが、息を呑むくらいの美形である。

 女は勿論、男までも。

 

 ほんのり赤みのさした、白い綺麗な肌。

 美しいさらさらの金髪が、肩まで伸びている。

 小さな顔は、鼻筋がすっと通り、切れ長碧眼の涼し気な目元をしている。

 形が良く、細い唇は、女の誰もがキスをしたくなる。

 

 魔王が実は、人間の超イケメンだと、偽りを言っても、誰もが疑わないであろう。


 この魔王の年齢は、ぱっと見、人間でいう20代前半……

 しかし長命たる魔族故、この世界に現れる前には既に生まれ、もう500年を超える年月を生きていた。


 さてさて、最終決戦で、激突した両者の力は全く互角。

 体力、膂力、魔力、技の殆どに優劣がない。

 それ故、戦いはまる3日間に及び……

 決着は……中々つかなかった。

 

 一応、勇者は数回に渡って『降伏』を呼び掛けたが、誇り高い魔王が応じるわけがない……


 激戦の末、戦う事に、いい加減飽きたのだろうか?

 魔王が大声で言い放つ。


「おいっ! おっさん! そろそろ次で決着つけるぞっ!」


 魔王の言葉遣いは、綺麗な顔に似合わず汚い。

 『おっさん』という言葉を聞き、勇者が敏感に「反応」する。


「はぁ? な~にが、おっさんだ! このクソ魔王! そんな事言う魔族のてめぇは、一体俺の何倍生きてると思ってるんだっ! 俺はまだ、41歳なんだぞっ」


 怒鳴った勇者を見て、魔王が澄ました顔で考え込む。

 どうやら計算をしているようだ。


「ん~……、8倍? いや10倍以上だな」


 しかし!

 勇者はまたも大きく叫ぶ。


「馬鹿野郎! 俺はてめぇの年を知ってるんだ。てめぇこそ、俺よりず~っと、おっさんじゃねぇか! しかも計算間違いしやがって!」


「あ? ホント? ちょっち間違えたかな?」


「何が、あ? ホント? だ! アホ魔王、もう一回算数習い直した方が良いんじゃねぇかぁ!」


「いちいち、うるせぇな、不細工おっさん」


「何が不細工だっ! 抜かせ、バカ魔王! 正確にはなぁ、12倍強だ」


「相変わらず細けぇなぁ! 見かけによらね~」


「馬鹿野郎、余計なお世話だ! 俺はな、お前の年齢も性格も能力も戦い方も、ちゃんと調べて知ってるんだぞ!」


「はぁ!? 俺の事全て知ってるだとぉ? げぇ! 気持ちわりぃ! おっさん! 勇者の癖に、てめぇはストーカーかぁ!?」


「何言ってる。こっちだって、お前の事調べるなんて、すっごく嫌だ。でもなぁ、てめぇに勝つ為に仕方なくだ! 彼を知り己を知れば百戦殆うからずってことわざを知らねぇのかぁ!」


「知らん!」


「ああ、この無学者めぇ……算数も国語も駄目かよ、アホが!」


「うるせぇ、おっさん! そんな事知らんでも生きていけらぁ! 俺はてめぇが知る通り、実際、500年以上生きてるだろうがぁ」


 どうやらこの勇者と魔王……口撃というか、舌戦も互角のようだ。


「魔王! てめぇの汚ねぇ物言いには、もう我慢ならん! 神から賜った対魔王用、俺の究極奥義を喰らわせてやる!」


「こっちこそだ、勇者! てめぇの不細工な口から出る、超臭い息にはうんざりなんだよっ! 大魔王から伝授された、勇者討伐専用の究極奥義でてめぇなんか、粉々の塵にしてやるぜ」


「低能のアホバカ魔王! てめぇの、つまんねぇ御託は聞き飽きた、行くぜ!」


「不細工で足のくっせぇ、おっさん勇者! そりゃぁ、こっちのセリフだ、死ぬ覚悟しやがれぇ!」


「はぁぁぁぁぁぁっ! 究極奥義! 最高最良聖光救済天撃!」


「いえりゃぁぁぁっ! 究極奥義! 最低最悪堕落冥界深斬!」


 何か、わけのわからない……

 ふたりが放った、気合と最大の攻撃技がぶつかりあった瞬間!!!


 とてつもなく膨大なエネルギーがさく裂。

 既に廃墟であった魔王の城は……完全に消滅した。


 そして……

 さすがの勇者、魔王も、城もろとも消滅……

 結果は……『相討ち』となったのである。

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