第54話 激闘
叶恵の話は聞かず、心美は半ば強引に勝負を開始。
クイックブーストで距離を詰めて来た心美が、叶恵と鍔ぜりあう。
そのまま続く超音速の斬撃合戦。
二人の戦いは百花繚乱の狂い咲き。
手数は心美が上だが、両手で一丁のライフルを操る叶恵の刃は巧みで、執拗で、そして狡猾だ。
心美が右手の刃を振るう。それを完全に確認してから、叶恵はカウンターに入った。
叶恵の後ジャンは成功、したかに思われた。
叶恵の銃剣は心美のハンドガンを弾き、その反動でそのまま喉に突き進む。
だが心美の左手に握られた、もう一丁のハンドガンが妨げる。
二刀流は手数が多いが、片手持ちなので両手持ちの攻撃に押し負けてしまう。
だからこそ叶恵は心美のハンドガンを弾き、そのまま心美の喉を捉えられるはずだった。だが防がれないまでも心美のハンドガンに軌道を変えられ、心美自身も上体を逸らし、叶恵のカウンターは失敗に終わった。
後ジャンが通じない。
小野寺心美、やっぱりあいつは強い、本物だ。
心美が、まるで曲芸のように全身を激しく動かしバネのように飛び跳ね、叶恵の周りにまとわりつき、地面を転がったり叶恵の体を足場にして縦横無尽変幻自在の近接戦闘を披露する。
俺は続く二人の激しい銃剣技を見守り、思わず拳を握ってしまった。
二人の戦いは地上から空へ。
二人は複雑な三次元機動を描きながら、地上では有り得ない銃剣術戦を繰り広げる。
地上の二次元の動きに限らず、二人は互いの頭上や、真下からも攻撃をしかける。
鋼の手足に、翼を持った二人の美少女が空を舞い刃を交える。
それはまるで、天使同士の決闘にも見えた。
「どうしたの叶恵ちゃん! 君の実力はその程度なの? その程度でレッドフォレストに行くつもりなの?」
「ええそうよ! あたしはレッドフォレストに行く! 行って先輩との約束を果たす!」
「ふふ、先輩との約束か、詳しくは知らないけど、それが叶恵ちゃんの夢なんだね。でもそれはボクも同じ。ボクは子供の頃からMMBが大好きだった。子供の頃からずっとプロになりたくて、中学に入ってからはずっとレッドフォレスト杯に出るのが夢だったんだ」
普段は明るく愉快な心美から、飄々とした態度が抜ける。
「高校に入って一年目から関東大会に出られた。準優勝経験もある。でも、レッドフォレストには届かなかった。ボクにとっては、これが最後のチャンスなんだ、だから」
心美の戦闘スタイルが変わる。防御を捨てた、全力の猛攻が始まった。
「ボクは負けない、負けてあげない!」
「っっ、はぁああああああああ!」
捌き切れなくなった叶恵が苦悶に顔を歪めて、裂帛の気合と共に銃剣を振るう。
二丁のハンドガンの銃剣が、叶恵の渾身の一撃を受け止めて二人は鍔ぜりあいになる。
「あたしだって今年が最後なんです。今年を逃したら、先輩が卒業しちゃうんです! そうなったら、もう約束は果たせない!」
「なら、ボクを倒すんだ! 全力のボクを!」
「言われなくても!」
叶恵の斬撃と刺突は全て心美にさばかれる。
無傷の心美が、すでに満身創痍の叶恵機に猛威を振るう。
心美の一撃が叶恵の腕の装甲にひっかかり、崩れた均衡は止まらない。
心美の連撃が叶恵に連続ヒット。
叶恵は全てヒジから先の腕の装甲で防ぐが、みるみる装甲が裂けて人工筋肉が剥き出しになる。
心美が至近距離から連続して引き金を引く。
吐き出された弾丸全てが装甲を失った叶恵の腕に殺到。
電離分子装甲でダメージは軽減されるが、全ては殺し切れない。
断線した人工筋肉が飛び散る。
叶恵が悲鳴を、いや、咆哮をあげる。
この状況で、まるで諦めていない。
学園、いや、東京最強の生徒会長相手に、斬られても刺されても撃たれても屈しない。
レッドフォレストにかけた想いを、先輩との約束を果たそうと、叶恵が魂の宣言を口にする。
「あたしは、絶対に勝つ!」
「なら勝て! このボクに!」
心美が背面のスラスターを猛らせる。
背後の空間に巨大な斥力を生みだし、弾丸のように叶恵にハンドガンの銃剣を突きだす。
今だ!
叶恵の全身が、脊髄反射のレベルで反応した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます