第52話 VS生徒会長


「ボクのプラズマ包囲網をここまで防ぐなんて、東京大会でもそんなに多くは無かったよ」


 心美が空高く飛翔。叶恵も後を追う。


「ファミリアGO♪」


 心美の周囲から、八つのオービットが飛び立つ。


「えっ」


 八つのオービットは、今まで全て同じ方向、それも心美と同じ方向を向いていた。


 だが今度は、まるでオービット一つ一つが意思を持ったように飛行して、下から追いすがる叶恵を包囲した。


 三六〇度。全方位から叶恵を狙っている。


 まるで一対一の戦いが、九対一になったようだ。


「ちっ」


 叶恵は迷わずバックブーストで地上へ降下。


 頭上から降り注ぐプラズマ弾の雨をかわし続ける。


「なるほどね、地面の上なら、下から攻撃はこない。こっちの攻撃領域を減らしたわけだね。でも、いつまで続くかな?」


 叶恵の周囲を、八つのオービットがドーム状に包囲。


 周囲をぐるぐるまわりながらプラズマ弾を撃ち続ける。


 赤い光の棒を一発一発、軽やかにかわす叶恵。その姿はさながらマタドールだ。


 何発かは足に喰らっているが、胴体には攻撃を許さない。


 その姿を見下ろしていた心美が、ゆっくりと降下してきた。


「一次予選から見ていたけど、やっぱり叶恵ちゃんは最高の素材だね。超人的な動体視力と反射神経で八方向の攻撃全てに対応している。おまけに、かわし方も上手い。ただ、まだブーストモーションが未熟かな」


 心美の視線が、セコンド席の俺に向けられる。


 俺は、東京大会までには完璧にさせる、と目で語った。


 心美は満足したように口元で笑って、けれど酷薄な視線を叶恵に浴びせる。


「どうしたの叶恵ちゃん! そんなんでレッドフォレストに行けると思っているの? 言っておくけど、関東大会にはボクぐらい強い人が何人もいる。ボクより強い人もいる。だからこそ僕は去年も一昨年もレッドフォレストに行けなかった。去年はいなかったルーキーには、ボク以上のオービット使いがいるかもしれないよ!」


「当然!」


 叫んで、眼前に迫るプラズマ弾へ突貫。


 両腕でプラズマ弾を防ぎオービットドームを突破する。


 すれ違いざまに銃剣で一機のオービットを斬り裂き、大破させる。


 まっすぐ心美へ向かう、と、見せかけて叶恵は振り向き、銃剣の引き金をフルオートモードで引いた。


 連続して放たれるタングステン弾の縦列は一機のオービットに襲い掛かり、心美のファミリアに食いつく。


 一機のオービットがスパークして、地面に落ちた。


「これで二機」

「へぇ♪ ファミリアのみんな!」


 残る六機のオービットが叶恵に銃口を向ける。


 叶恵は心美ではなく、オービットに果敢に斬りかかる。


 六機のオービットと戯れるようにプラズマ弾をかわし、タングステン弾を浴びせ、近づけば銃剣で斬る。


 の、途中、いきなり心美に銃口を向けて叶恵が発砲した。


「っ!?」


 心美は首を逸らして、回避はギリギリ間に合った。


 その瞬間、叶恵が何度か斬りつけ小破していたオービットに渾身の一撃を叩き込み、完全に大破させた。


 心美のオービットが、一斉に真下を向いた。


「それは、朝更くんから聞いた戦法かな?」


 ボロボロの両手両足で、叶恵は無傷の心美に言う。


「ええ、オービットにはある程度のAIが入っているけど、細かい指示を出しているのは会長。八機同時操作は会長でも神経を使うから、一つ一つに狙いを絞れば撃墜できる。そして会長自身の防御が手薄になるって」


「そうかい、うん、朝更はいい先生だね。でも、ボクの実力は見誤っていたかな」


 心美の顔が、にぱっと笑った。


「ファミリアダンス♪」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る