第41話 準決勝開始です!

『さぁ皆様お待たせいたしました! これより準決勝第一試合! 三年六組近衛佳澄選手VS一年二組藤林叶恵選手の試合を始めます!』


 これまで通りに実況がアナウンスするアリーナ。

 選手入場口の廊下で並ぶ俺と叶恵。


「叶恵、相手はオールマイティ型だ。まず間違いなく射撃戦を挑んで来る。そうなればお前が会得した二つの奥義『相対突き』も『後ジャン』も使えない」

「うん」


 叶恵はイイ感じに集中した顔で頷いた。


 緊張しているかと心配にしたけど、これなら大丈夫そうだ。


 その時俺は、さっき立ち聞きしてしまった心美との会話を思い出す。


 心美の奴、まさかこれを見越してあんな会話を?


 コーチである俺の凄さをアピールしつつ、君なら大丈夫だという激励、そして自分が優勝するとは限らないという謙虚さ。


 もしも叶恵が緊張しないよう、闘志を消させぬよう言ったのだとしたら、心美に感謝しなくてはならない。


「だから叶恵、射撃戦でイラつかせてやれ。接近戦に引きずり込むんだ。あと二回勝てば東京大会。それまでにはお前のブーストスキルを全国レベルにして遠近両方で戦えるようにしてみせる。だからあと二試合だけ近接戦闘で勝ってくれっ」


「解ったわ朝更! …………ねぇ、朝更」


 叶恵は一度言葉を吞み、それから穏やかに語る。


「あんたがいなかったら、あたしは絶対この場にいなかった。だからこの試合に勝って、決勝戦に行けたら聞いて欲しいの……あたしが、レッドフォレストに行かないといけない理由!」


 俺は何も言わず、叶恵の頭を二度、ぽんぽん、と優しく叩いた。


 それでも手は離さず、叶恵の艶やかな髪の感触を肌で感じながら告げた。


「ばーか、死亡フラグ立ててんじゃねぇよ。お前が話したくなったら好きな時に話せよ。地球にいる間、俺はいつだってお前の隣にいるんだからな」


 叶恵は俺をみつめ、感極まったように頷いた。


「うん、ありがとう朝更! あたし行ってくるね♪」


 叶恵の甲冑の足が床から離れる。


 滑るような浮遊走行で入場口へ進んだ叶恵は、背が高く腰まで伸びたロングヘアーが印象的な美少女と対峙した。


 彼女の切れ長の目が、叶恵を見据える。


「三年六組、風紀委員委員長! 近衛佳澄よ。私は去年、今の生徒会長である小野寺心美に負けて東京大会への切符を手にできなかった。だから私は、今年こそ東京大会へ行く! それが私の夢だから!」

「小さいわね、東京大会なてただの通過点じゃない。あたしの夢はね、レッドフォレスト杯に出る事よ!」

「っっ」


 佳澄の眉が、悔しそうに一瞬引きつった。


『さぁ、それでは両者、用意はいいですね。それでは準決勝第一試合。始めぇ!』

 試合開始のブザーと同時に、佳澄はバックブーストで距離を取りながら弧を描くようにして地上を離れ上空へ逃げる。


 観客が見上げる中、叶恵に両手の電磁投射小銃を構えた。


「喰らいなさい!」


 引き金を引いて召喚される弾幕の嵐。


 叶恵は当たる直前にクイックブーストで緊急上昇。


 叶恵は全神経を回避に集中して、全ての弾幕をよけきった。


 こっちからは攻撃できない。


 だがこのまま弾幕を張れば佳澄は弾切れだ。


 それが理想の展開だが、人の夢と書いて儚いと読む。


 佳澄は弾幕をやめ、必中狙撃に作戦を変えた。


 叶恵と佳澄は観客に見上げられながら、アリーナの空を三次元機動を駆使して縦横無尽に飛びまわる。


 けど叶恵が佳澄の後ろを取ることはない。


 佳澄は主推進装置(スラスター)と補助推進装置(バーニア)を上手く使い、スピードに緩急をつけながら叶恵を狙う。なかなかの命中率で電磁投射されたタングステン弾を撃ってくる。


 叶恵にはクイックブーストを使った飛行奥義を伝授したが、まだ使いこなせてはいない。


 現状、習得率は五割といったところだろう。


 佳澄の正確な射撃に、叶恵はかわしきれず何度か脚部パーツで受け止めている。


 でも叶恵だって負けていない。


 叶恵は近づこうとせず、むしろ佳澄から距離を取るようにして飛行する。


 接近戦タイプである叶恵のほうから距離を取るという不可解な飛行に、相手選手である佳澄は怪訝な顔をする。


「これでいい、何せ、今回の秘策は『遠距離射撃』にあるんだからな」


 叶恵が放った一発のタングステン弾が、佳澄の腕を弾いた。


「なん、だと?」

  

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