第32話 準々決勝 敵は剣道部エース


 入場口からアリーナへと入る叶恵の背に、俺は心の中でエールを送る。


 勝て叶恵。


 この二週間でお前は、この学園の誰もが体感したの事ない技術を身につけているんだ。


 実況者が叫ぶ。


『それでは学園トーナメント準々決勝第二試合! 始めぇ!』


 開始のブザーが鳴ると同時に、叶恵はクイックブーストで接近。

 逆に相手の女子は緩やかなバックブーストで下がりながら叶恵の銃剣を受け止めた。


「はあああああああああ!」

「喰らわん!」


 叶恵の裂帛の気合と共に打ち込んだ一撃を長刀で防いで、相手は攻撃に転じる。

 今度は叶恵が相手の長刀を銃剣の刃で受け流して捌く。


「よし!」


 俺はガッツポーズを取る。

 二人の銃剣と長刀が華麗に舞う。

 演武のように軽やかで美しい二人の戦いに、客席も熱くなる。


 流石は剣道部エース。

 今までの試合から突貫は危険と判断したのだろう。


 地上から僅かに浮いた浮遊移動で、時には地面に足をつけ正当派剣術で攻めて来る。


 長刀を素早く巧みに操るが、全身でぶつかるような真似はしない。


 これでは相対突きは使えない。


 でも問題は無い。


 一年生の叶恵が、剣道部エースである自分と互角に切り合っている事に驚いているのだろう。


 相手の眉がぴくりと動いたのを見て、俺はいやらしく口角を上げる。


「銃剣術者の利点は、野球の左利き、サウスポーに似ている」


 相手はやりにくそうに叶恵の銃剣を捌き続ける。


 こっちは中学三年間で飽きるほど戦って来た剣術が相手で、なのにそっちはたぶん人生初の銃剣術が相手だ。


 経験が財産なら、今の相手は無一文。


 武士は刀を一人前に使えるようになってから倍以上も長い槍や薙刀の稽古をする。


 剣術と長物術は互換性があって、叶恵は剣道と薙刀道の有段者。剣以上槍未満の長さの銃剣に順応するのは早かった。


 向こうは剣道二段らしいが、その差は経験が埋めてくれる。


 それに叶恵は超反応力を持っている。



 剣道二段の太刀筋を見極めて防ぐのは不可能じゃない。


 でも相手も剣道部エース。


 慣れない銃剣相手に、なんとか防いでいる。


「互いに互いの攻撃を防御し合ってちゃ決着はつかない。でも相手は思い切って叶恵の懐に飛び込もうとすれば相対突きがくる。でも叶恵には相対突きが駄目でもアレがある! 俺が教えたもう一つの奥義、後ジャンが!」

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