第26話 トーナメント開催

「それではこれより、学園トーナメントを開催致します」


 アリーナでは参加選手全三二名と、俺を含む教員が、壇上の学園長を見上げていた。


「優勝者は一人! 東京大会に出られるのも一人! 皆さん、私に言える事はただ一つです。勝ちなさい! それこそが我ら女子闘技者の本懐。だれよりも強く、美しく、気高く戦い、勝利をその手に収めるのです!」


 まだ三〇代と若い学園長は、元女子MMBのプロ選手だ。その目は今だ燃え尽きぬ闘志に溢れ、声にも強い力がこもっていた。


 俺や叶恵、心美やアメリア達その場の人達が一斉に敬礼。


 そして、開会の花火が上がり、観客席を埋め尽くす全校生徒や街の人達が歓声でアリーナを埋め尽くした。


 参加選手達の顔ぶれを見るが、みんないい顔をしている。


 もちろんみんな可愛いが、そういう意味ではなく、やる気に溢れた目だ。


 鍛えれば、将来はきっと強くなるだろう。



 でもまだ、


 と、俺は心の中でほくそ笑む。


 俺の弟子のが強い。


「それでは、これよりトーナメント表を発表する!」


 学園長の宣言と同時に、アリーナの超巨大投影ディスプレイにソレは映し出された。


「へぇ」


   ◆


  トーナメント表を俺なりにまとめるとこんな感じだ。


 Aブロック

1の1VS3の6 1の6VS3の2 1の9VS3の1 1の10VS2の4

 Bブロック

叶恵VS2の1 1の7VS2の3 2の5VS3の3 1の8VS2の10

 Cブロック

1の3VS3の9 2の6VS3の7 2の9VS3の8 2の8VS心美

Dブロック

1の4VS2の2 1の5VS3の4 2の7VS3の5 アメリアVS3の10


 うまいこと知り合いが別々のブロックに分かれたものだ。


 初戦からいきなり心美と当たるようなことがなくて俺は安心する。


 みんなには悪いけど、俺の叶恵が決勝に行くのは間違いないだろう。


 あとは反対側から上がって来るのが心美かアメリアか。



 心美とは随分会っていないが、彼女の実力は去年の関東大会動画で見させてもらった。


 彼女は去年の学園覇者であり、東京代表だ。


 ハッキリ言うと、心美は叶恵より明らかに強い。


 勝ち目はゼロだ。


 だがそのゼロを俺の策と叶恵の才能で五分にする。


「お、決着だな」


 選手入場口で待つ俺と叶恵の視線の先で、Aブロックの試合は終了。

 続いてBブロック第一試合、つまりは、叶恵VS二年一組代表だ。


「よし叶恵、みんなの度肝抜いてやれ」

「うん、任せて♪ この二週間で、これも使えるようになったし、バッチリよ♪」


 叶恵はアメリア戦で使った直刀ではない、ソレを握り、自信に溢れた顔で笑った。


「ああ、よし行って来い叶恵!」

「了解♪」


 会場アナウンスに合わせて軍事甲冑に乗った叶恵が入場。

 肩のミサイルランチャーも、背面や腰のハードポイントの武装も全て外した軽装備スタイル。


 対する相手は両手にツイン・プラズマ・ソードを握り、肩にはガトリング砲を装備している。


 放送部の実況が二人の解説をするが、観客も実況もやはり叶恵の武装に驚いている。


『なんと一年二組代表藤林叶恵選手、その武器は銃剣付き小銃一丁だけです!』


 そう、叶恵の手に握られているのは剣でも銃でも無い、長い銃口の下に長い刀身を取りつけた銃剣だ。


 銃剣という言葉は、銃口の下の刀身と、銃を含めた全体両方を指す言葉なのでややこしいが、とにかく叶恵の武器はガンブレードだ。


 二十一世紀の軍隊ではポピュラーな基本装備だが時代の流れと共に廃れ、特に量子化技術で複数の武装を持てるようになった現代では剣と銃を別に持つ。


 その為、銃剣は中途半端な武器として使う人が少ない。


 でも、俺が叶恵に銃剣を使わせたのには立派な理由がある。


『それでは両者位置について!』


 まぁもっとも、その理由の出番は、おそらく準決勝か決勝まで来ないだろう。


『始めぇ!』

「我が神速の剣を喰らえ!」


 試合開始と同時に、相手選手が両手の剣を振り上げ突っ込んでくる。


 クイックブーストによる急発進とメインブーストへの引き継ぎは見事だが、この戦法はリサーチ済みだ。


 たいていの生徒はここで瞬殺か、この攻撃をかわしてから本番スタートだが叶恵は違う。


「今だわ! 奥義、相対突きぃ!」

「!?」


 相手の突貫を出来るだけ引きつけてから、叶恵は自身もクイックブーストで前進。


 長い銃剣の刀身先端が、相手選手の胸の中央に直撃。


 叶恵自身の攻撃力に、相手の全体重と推進力を加えた一撃は電離分子装甲を貫通。


 電離分子皮膚に確かなダメージを与えた。


 試合終了のブザーが鳴る。


 実況者が震えた声で、


「ふふ、藤林叶恵選手の勝利です!」


 盛り上がる観客席。


 尻餅をついて倒れる相手選手は、何が起こったか解らないと言った様子で辺りを見回している。


 まだ自分が負けたのが信じられない。


 そんな様子だった。


 叶恵はと言うと俺を振り返り、はじけるようなとびきりの笑顔を見せてくれた。


「やったー♪」



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