第16話 パワードスーツ訓練 プラズマ操作


「よし、いいぞ、じゃあもう少し手数増やすからな」

「え、ちょっ、うわ!」


 次の日の土曜日。俺と叶恵は生徒に解放されている練習用アリーナで軍事甲冑を着て試合をしていた。


 俺のオオクニヌシの武器は高周波槍で、俺の連続突きを叶恵はとある得物でさばきながら死に物狂いでかわしていた。


 背面の尾翼を操り、ブーストアクションで空を自由自在に飛び、完全なる三次元機動の世界で俺らは刃を交える。


 叶恵は上手くかわしていたが、俺がちょっと本気を出すと途端に刃が装甲を削るようになった。


 俺は槍を叶恵の喉で寸止めする。


「よし、次の練習だ。一回下に降りるぞ」


 俺は自由落下に身を任せて、漆黒の機体は無音で着地。

 叶恵は下に飛んで、着地直前に減速してから着地した。


「お前プラズマ配分どうしてる?」

「え? 配分は、特になにも……」


「OK。叶恵が次に覚えるのは電離分子装甲(プラズマ・アーマー)の配分操作だ。前の戦いでお前、電離分子盾(プラズマ・シールド)と電離分子領域(プラズマ・フィールド)使わなかったよな?」


「ええ、コレと、コレ、でしょ?」


 頷いて、叶恵は自身の前に半透明の壁を展開。続けてソレを、自身を包むようにして球状に変形させる。


「それを使わないのはアメリア戦だけじゃなくてこれからも共通な。どうしてもかわせない緊急時は仕方ないけど『敵の攻撃はプラズマ・フィールドで防いじゃえ』なんて思っているとどうしても回避力が落ちる。それにシールドとフィールドは消費エネルギーが多い。スラスターに回る分が減って飛行速度も下がる。ジェネレーターからの余剰エネルギーをコンデンサにプールしている分を解放すれば、最大フィールドを維持したまま最大速度で飛べるけど、長続きしないしな」


「まぁ、あたしの武器が動体反射だからはそれは解るけど。じゃあこれからも防御は回避だけで行くの?」


「いや、叶恵にはプロ選手や一流軍人の使う技術を覚えてもらう。元からシールドやフィールドは玄人ほど使用頻度が低い。それは何故か、理由はコレだ」


 俺は電離分子装甲が見やすいよう密度を高める。


 すると、漆黒の機体、オオクニヌシの全身を淡い光が覆っているのが解る。それが突然波のように動き、手足は薄く、胴体は厚くなる。続けてさらに厚みを偏らせて、頭部だけ、心臓部だけにして見せる。


「すごい、何これ!?」


 叶恵は子供のように目と口を開けて、『うわぁ』と興味津々で見つめる。


 俺の使う全身フルアーマーの甲冑と違い、スポーツ用のは胴体や顔の装甲がないので本人の表情が丸見えだ。


 ついでに、水着以上にぴったりとしたセクシーなパイロットスーツ姿も丸見えだ。


 スポーツ用と違い、正規の軍事甲冑がフルアーマーで良かった。


 顔面装甲がないと俺の視線がチラチラ下を見ているのがバレていただろう。


「シールドやフィールドは張るのに少し時間がかかるし消費エネルギーも多い、プラズマが邪魔でこっちも攻撃できなくなる。でも全身を薄く覆っているアーマーを一点に集中させるのは瞬間的にできるし量は同じだから消費エネルギーも据え置き。もちろん自分の攻撃が阻害される事も無い」


「ほうほう」


「戦場と違ってスポーツ化された甲冑戦、MMBは選手が無傷でも電離分子装甲の下の電離分子皮膚が一定以上のダメージを検知したら強制的に負けだ。だから手足のアーマーは薄く、装甲の無い二の腕や太もも、胴体や顔に多く配分するんだ。プロになると相手の攻撃を喰らう瞬間、打点だけ厚くしてダメージを最小限に抑える」


「そんなテクニックが、ようし、じゃああたしも、てりゃ!」


 叶恵の全身を覆うプラズマに、波紋が広がって揺らめいた。


「う~~~~!」


 叶恵は目をつぶって集中するが、プラズマに広がる波紋が増えただけだった。


「ぷはぁっ、これむずかしいわね朝更」

「そのうち慣れるよ。スラスター操作と同じだ。軍事甲冑って、ボタンやレバーじゃなくって、脳波で操作するだろ?」

「うん」


「巨大ロボじゃなくてパワードスーツだから、手足はいいけど人間の体に本来無い器官。レーダーシステムやスラスター、プラズマ操作も脳波で行うから甲冑に乗ると手足が増えたように感じる。でも今まで操ったことの無い手だからすぐには動かせない。ちょうど足の指をそれぞれ動かそうとするようなもんだ」


「確かに、あたしも最初は尾翼操作難しかったわ」


 叶恵は左右の尾翼をそれぞれ動かして、スラスターやバーニアをいろんな方向に向けた。


「お前の武器は動体反射力。今までのオーソドックスな戦闘方法は忘れろ。とにかく敵の攻撃をすべてかわしまくって生まれた隙を一気に突け」


「それはわかったけど……武器、本当にこれでいくの?」


 叶恵は不安そうな顔で、自分の握る得物を見下ろした。


「お前の技能を最善に生かしてレッドフォレストに行くには、ソレを使いこなすのが一番なんだよ」


「でもこんな中途半端な武器……」

「昔の軍じゃ、凄いポピュラーな武装だったんだぞ。今説明すると頭の中ごっちゃになっちゃうから後にするけど、今は言う通りにしてくれ」

「うん、わかったわ」


 素直に頷く叶恵に、俺も頷く。


「よし、いい子だ。そのかわり明日の訓練は夕方だけにするよ」

「え、でも学園トーナメントまではもう二週間もないのよ?」


 叶恵はちょっと慌てながら俺に詰め寄る。


「いきなり俺のハードメニュー続けて体壊されても困るしな。体調管理と休憩も大事だ。その代わり今日と、あとトーナメント前のゴールデンウィークはがっつりやるぞ」

「わかったわ、じゃあ朝更。明日の午前と昼はお休みなんでしょ?」

「ああ、好きにしてていいぞ」

「じゃあ一緒に街行こ街」

「街?」

「うん、コーチしてもらっているお礼もしたいしさ」

「それなら最初に会った時の下着観賞で」

「それはイヤ!」


 叶恵の顔が、リンゴ色になる。


「あとこれもそういうのじゃないの! ほら、物買ったりサービス受ける時ってさ、お金払っているのに客も『ありがとう』って言うでしょ? あれと同じよ。これはコーチの報酬とかじゃなくて、普通にあたしの気持ちっていうか……とにかくコーチを引き受けてくれたお礼はもっと、別の形で払うから!」

「パンツで?」

「だから違う!」


 叶恵をいじっていると楽しいなぁ。

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