第12話 祝勝会

『叶恵、クラス代表おめでとう♪』


 その日の夜。学園のすぐ近くにある喫茶店では、藤林のクラス代表決定を祝ってクラスメイト全員でささやかなパーティーを開いた。


 お祝いのクラッカー音と同時に、みんなの投影画面からクラッカーの中身が噴き出す。


 触れる立体映像、投影画面の技術を流用したそれは、床や料理に触れると徐々に薄くなって消え、片付けの必要が無く実に便利だ。


「よしみんな、今日は貸し切りだから、遠慮せず騒いでいいぞ」

「え!? ちょっと貸し切りって、あんたお金は」


 目を丸くする藤林に、俺は笑いながら手をひらひらさせる。


「俺の危険地手当から出したよ。戦場にいると手当ばっかで使うところなくて」


 ただし勲功手当には手を付けていない。

 人殺しで貰った金でパーティーというのは藤林がかわいそうだ。


「でも桐生。こんな急によく貸し切りなんてできたわね?」

「ああ、お前なら勝つと思ってたから、三日前から予約してた」


 藤林の顔が、ボッと赤く染まった。


「あ……ありがと」


 うつむいて、両手の指をもじもじとからませる姿に俺は満足だ。


 喜んでもらえたみたいだな。


 こうして俺らは各テーブルに盛られたパーティー料理やジュースを食べながら盛り上がる。


 名目上は藤林のクラス代表祝いだが、ただ騒ぐ場所が欲しかっただけではないのか、と思うほど、皆で騒ぎ倒している。


 ただ何人かの生徒は、藤林をはさんで素直に激励している。


 担任の水越先生も、


「藤林さん。ゴールデンウィーク明けの学園トーナメント、頑張ってくださいね」


 と、胸の前でガッツポーズを作り、ちょっとテンションが高めだ。


「ねぇ桐生くーん、桐生くんてやっぱり、戦争終わったらプロ選手になるの?」

「月面の戦いってどんな感じなのー?」


 俺は俺で、他の女子から質問攻めだ。


 俺は愛想笑いをしながらどうしようかと思って時計を見る。それから、パーティー開始からずっと俺らを監視している、キュートなスパイの確保に向かう事にした。


「悪い、ちょっと外の風に当たってくるよ、また後でね」


 俺は名残惜しそうな女子に詫びを入れて、喫茶店の外にでた。


 戦場暮らしというよりも最激戦地暮らしが長かったせいか、こういうのには敏感だったりする。


 月明りと街の明かりの中、店の外の観賞用植物でうごめく金髪の位置を確認。


 観葉植物の隙間から見える金髪の持ち主にわかりやすいよう、あえて足音を立てながら俺は店の前の歩道に近づいた。


 観葉植物が揺れる。慌てた小さな悲鳴。


 俺が歩道に出ると、案の定、そこにはアメリア・ハワードが隠れる場所を探している途中だった。


 俺はわざとらしく、


「あれ? もしかしてハワードじゃないか? こんなところで奇遇だな。お前も夜の散歩か?」

「さんぽ? !? え、ええ、その通りデース! 散歩デース、たった今、ここを通りかかったところデスネ!」


 両手を振って汗をかきながら必死に言い訳をするアメリア。

 俺はことさらわざとらしく。


「そういえば今日の帰り、みんなが言っていた藤林のお祝いだけど、実は場所がここなんだ。知っていたか?」


 アメリアは咳払いをしながら視線を逸らす。


「え? あ、ああそうだったんデスカ。全然知らなかったデスヨー」

「まぁお前、あの時は違う事してたみたいだし、聞いてなくても無理ないよ。あらためてちゃんと伝えるべきだったよ。悪いなハワード」


 胸の下で腕を組み、アメリアはそっぽを向く。


「べ、別にハンパイガールのパーティーなんて」


 今だ! 俺はたたみかける。


「ところでせっかくのパーティーにもう一輪、花を添えたいんだけど、ハワードみたいに綺麗な子が来てくれたら場がはなやぐんだよなぁ」


 俺は、顔を背けるアメリアにそっと右手を差し出す。


「パーティー、お前も参加してくれないか?」

「…………」


 アメリアの頬に、強い赤みが差した。


「そ、そこまで言うのなら」


 胸の下で組んだ両腕をゆっくりとほどいて、俺の手に優しく触れてくれてから、横目で俺を見る。


「特別に参加して、あげるデス」

「おう」


 俺はアメリアの手を引いて、ゆっくりと歩を進める。


「アサラ!」


 振り返ると、アメリアが涙を浮かべて、迷子の幼女みたいな顔で俺を見つめてくる。

 感情表現が激しいのか、いや、俺の予想以上に試合結果がショックだったらしい。


「ワタシは、弱いのでしょうか……」


 アメリアの、サファイアブルーの瞳から雫がこぼれる。

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