第6話 俺はどうすれば

 ツインテ達がホテル内を探索すると、

 大浴場。

 キッチン。

 食堂などがあった。

 食堂はバイキング形式。

 常に様々なご飯が並んでいて、いつでも好きに取って食べることができる。

 晩御飯を食べていない俺らは、食堂で食事を取ってから就寝。

 俺も部屋でおとなしく寝た。

 それにしてもおかしな日だった。


 今日のこと全てが夢で、朝起きたら自分の部屋だったとしても、俺は驚かないだろう。


 やっぱりね。


 その一言で終了だ。

 俺は一秒でも早く寝ようと、ベッドの中でひたすらじっとした。



   ◆



 目を開けると、知らない天井、ではない。

 昨日一度見ているから、知っている天井だ。

 そう、昨日一度見た、あの、高級感溢れるホテルの天井だ。

「やっぱりね」

 昨日期待した意味とは違う意味の『やっぱりね』だ。

 都合よく全部夢でした、で終わるはずがない。

「とりあえず、ご飯食べに行くか」

 俺は頭をかきながらベッドから抜けだして、部屋を出た。



   ◆



「誰もいない?」


 俺が二階の食堂へ行くと、そこはもぬけのからだった。


 時間は朝の七時。


 よっぽどみんなは朝が早いのか。


 それとも遅いのか。


 食堂は広くて、長テーブルやイスが何十とある。


 そんな広い場所に自分ひとりだけでいると、なんだか怖くなってくる。


 誰もいない世界に、自分ひとりだけが取り残されたような、だんだん、そんな気分になってくる。


「いや、考えすぎか」


 俺は、昨日みんなの部屋の場所を確認しなかったことを後悔する。


 でも子供じゃあるまいし、何ビビッているんだよ。


 と自分に言い聞かせて、俺は朝食をとった。



   ◆



 話す相手もいないので、俺は一人、もくもくと食事を口に運ぶ。


 米も、

 味噌汁も、

 ベーコンハムエッグも、

 なんだか味が薄い。


 いや、味は感じているけど、ソレに対する感想が浮かんでこない。


 これがマンガの世界で、俺がマンガの主人公なら、謎の異空間に閉じ込められて一〇人の男女が命がけのデスゲームやサバイバルに挑んでいくわけだ。


 でも、そんな幻想はとうの昔に捨てている。


 ここは現実。

 その現実で怒らないことをするのがマンガでありゲームでありアニメであり、そしてラノベだ。


 俺は緑茶を一気に半分も吞んだ。


 アフロの言う通りなら、これはドッキリ番組だ。

 俺は、かなりおおがかりなドッキリ番組を見たことがある。

 あれは確か、特殊メイクで作った人魚を見せて、本物の人魚を捕まったと騙すやつだったな。

 ファンタジーなモンスターが実在したと騙すわけだ。


 あと、芸人に対して、ニセの番組収録も定番だろう。


 なら、確かに何も知らない学生を唐突にゲームに参加させるのも、まぁ、うん、納得できなくは、ない、かな?


 なんだか、ちょっとそんな気がしてきた。


「なら、どうやって勝つか考えるか……」


 俺は、ズボンのポケットから占い師のカードを取り出した。

 子供が遊ぶバトルトレーディングカードみたいなデザインのそれを眺めながら色々考える。


「俺のジョブって、特殊能力っていうか、ただの事前情報だよなぁ。ゲーム中に何かできるわけじゃないし」


 占い師の能力によると『ツインテ』と『キンパツ』二人の女子が村人であるのは確定している。


 ツインテは、名前の通り長い髪をツインテールにした綺麗な女の子だ。


 キンパツは、髪こそ染めているけど、別に不良っぽい感じがしない。かといって、ギャルっぽいわけでもない。


 言葉づかいも普通だし、なんていうか、高校デビューを間違った子、みたいな印象かもしれない。


 キンパツも、結構な美少女だと思う。


 うん、つまり俺はこのゲームで美少女の味方をすればいいんだな。


 ちょっとテンションが上がってしまう。


 このゲームをきっかけに、思いがけず美少女と仲良くなったり、という妄想をするのは、男子高校生の悲しいサガという奴だ。


 でもさ、ちょっとぐらい妄想したっていいじゃん。


 俺の単細胞なおつむじゃ無理だけど、すごくかっこよく、びしっとばしっと推理をキメて人狼が誰かを発見したら、俺にキュンとくるかもしれないじゃないか。


 まぁ、俺がびしっとばしっと推理をキメるの事態が有り得ないんだけど。


 俺はせいぜい、ツインテの助手か?


 俺は、探偵の格好で華麗に推理をキメるツインテの横で紙吹雪を撒く自分を想像してしまった。


「って、これは助手ですらないし!」


 自分の顔の前で手を振る。

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