第26話 ヒロインと一緒に

 結局、アオイもヒクイドリの解体作業をしながら話を聞いた。


「それで、なんで女のアオイがこんなところにきているんだよ」


 ヒクイドリのゲロと糞が詰まっている消化器官は切り離すと、しごいて地面の上に中身を捨てる。


 それから、湖の水を中に通して綺麗に洗浄する。


「だって、いつも狩りは一緒でしょ?」

「まぁそうだけど。そのかわり、手出しは無用だからな」

「うん、ありがとうね、アギト」


 嬉しそうにはにかむアオイが可愛くて、俺は上機嫌になりながらヒクイドリを解体する。


 心臓、肝臓などを切り取り、槍先に突き刺して火で炙った。


 ヒクイドリはでかい。


 体重も俺らより重くて、内臓だけでも俺ら八人の腹を十分に満たしてくれた。


 腹が満たされると、俺とアオイは湖の岸に腰を下ろして、澄んだ水面を眺めて休憩した。


 いまなら聞けると思い、俺はアオイに尋ねる。


「なぁアオイ。なにか俺に言いたいことはないか?」

「ッ!?」


 アオイは動揺した顔で俺を見上げる。


 おばさんの意味深な表情とか、


 今日の見送りで俺に声援を送ってくれなかったりとか、


 なんだか、いろいろと気になってしまう。


 アオイは一度うつむいてから、チラチラと俺の様子をうかがってくる。


 頬には僅かに朱が挿している。


 この様子を見る限り、やはり何か言いたいことがあるようだ。

 でも、アオイは俺を見上げる顔を伏せて、背中を丸くしてしまった。



 無理はいけないな、と思い、俺はアオイの頭をなでた。


「ごめんな。無理に言わなくていいよ」

「アギト……」


 申し訳なさそうな声音のアオイの手を取って、俺は立ちあがった。


「ほら、そろそろ行こうぜ」

「うん」


 アオイの声は、少し明るかった。


 そのとき、重たい足音が俺らの耳に触れた。


 荷車の近くにいた俺の仲間たちも、一緒に同じ方向に目をやった。そこには、一頭の巨大な草食動物、ヌーが背の高い草をかきわけるところだった。


 ヌーとは牛の一種で、黒い毛とややうしろに湾曲した二本の角が特徴だ。


 この平原に住む動物のなかではもっとも大きく、体重のある動物だ。草食動物最強と言ってもいい。


 でも、去年の狩猟祭でリーダーは、単独でこのヌーを仕留めている。


 俺が今日仕留めたウンピョウと比べて、どっちが評価されるかはわからない。


 どうしても決まらない場合は、集落の女たちによる投票で決まる。


 でも、ウンピョウとヌーを両方仕留めれば、今年の狩猟男は確実に俺だ。


 ヌーはおいしそうに湖の水を吞んでいたが、俺の殺気に気づいたのだろう。


 俺がヌーを仕留めようと決めると、ヌーは水面から顔を上げた。


「離れていろアオイ」

「……うん、頑張ってね」


 俺を心配することなく、信頼して荷車のほうへと離れるアオイ。


 俺が地面に転がしていた槍を拾い上げると、ヌーはすでに戦闘態勢に入っていた。


 蹄で地面を蹴り、頭を振って鼻息を荒くしている。


 自然と俺の口元には笑顔が吹きこぼれ、心臓が高鳴って肩が疼いた。


「来いよ草食最強。そんで、人間最強予定の俺に喰われな」

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