第23話 祭

 狩猟祭とは、年に一度、秋に行われる一大イベントだ。


 なんといっても秋は実りの季節だ。


 森の木々は多くの木の実をつけるので、女たちの採集量は格段に増える。


 それに、木の実を餌とする草食動物は太って、その草食動物を食べる肉食動物も太るから、男たちの狩猟による肉が増える。


 そこで狩猟祭だ。


 参加する男たちは仲間とともに狩りへ行く。


 だが、原則として狩りは単独で行わなくてはいけない。


 そうして、単独でもっとも立派な得物を仕留めた男が、その年の狩猟男、凄く強くて優秀な男に選ばれる。


 狩猟男に選ばれたからといって何かがあるわけではないが、集落のリーダーは狩猟男になった数の多い男がなるのが通例だ。


 それに、狩猟男は女にモテる。


 狩猟男に選ばれた男の多くは、その場で好きな女に結婚を申し込む。そして狩猟男に結婚を申し込まれて、断る女はいないと言われている。


 かくいう俺の死んだ母さんは、父さんが狩猟男に選ばれたときに結婚を申し込まれたらしい。


 俺も、狩猟男に選ばれたらアオイと結婚するつもりでいる。


 でも、ひとつだけ問題がある。


「なにしているのアギト?」

「ああ、弓の強化だよ」


 いまの俺は、家のなかで弓作りの真っ最中だ。


 アオイが俺の狩りに参加するようになって、もうかなり経つ。


 秋も仲秋になって、もうすぐ晩秋に入る。



 そのあいだ、俺は弓を強化するために、色々と工夫をしていたのだ。


「矢を飛ばすのは弓の弦だろ? だから植物のツルよりもいい素材はないかと思って、いろいろな動物の腸を乾燥させたり糸と寄り合わせたりしているんだよ。ほら」


 動物の腸は、上手く乾燥させると、強い弾力性に富んだヒモになる。

 俺は新しく弓の弦に通した弦を、指で弾いてみせる。

 弦は力強く、びぃん、と音を鳴らす。


「わぁ、すごい」


 アオイが両手を口にあてて驚いてくれるのが嬉しい。


「明日の狩りはこれ使ってみろよ」



 俺が弓を手渡すと、アオイは笑顔で頷いた。


「うん、ありがとうアギト♪」


 その笑顔はとても可愛くて、俺はいつものように見惚れてしまう。しまうのだが、俺の視線はやや下がってしまう。

 俺の視線は、アオイの胸元に下がっていた。

 アオイは気づいていないのか、何も言わず俺に背を向けて、


「じゃあこの弓、ちょっとマトで試してくるね♪」


 と、上機嫌に家の出入口に向かった。

 俺は座っているので、頭の高さ的に、アオイのお尻が俺の目線にくる。

 アオイの背中が遠ざかるとき、俺はアオイの腰巻、もといお尻を観察してしまった。


「…………」


 はじめてアオイが狩りに出た日。俺はアオイを抱きしめて感じた違和感を覚えた。


 違和感の正体は、明白だった。


 アオイの肌はすべすべで、やわらかくて、とても触り心地がいい。


 ただ何というか最近のアオイは……胸とお尻が異常にやわらかい。


 ストレートに言うと、胸がふくらんで、お尻が丸みを帯びてきている。


 特に胸なんか、アオイの母親に迫る勢いだ。


 女の胸が、大人になると少し膨らむのは俺でも知っている。


 ただし、十三歳で大人に近い大きさに膨らむ女なんて、見たことがない。


 だから何かの間違いかと思ったけどもう無理だ。


 アオイの体は、この短期間で明らかに発育している。



 そのとき、ちょうどおばさんが家に入って来たので、俺は聞いてみる。


「あのおばさん。アオイって、まだ大人入りはしていないんですよね?」


 さっき俺が語った問題。


 それは、アオイがまだ大人になっていないとう点だ。


 狩猟祭で狩猟男に選ばれたら、俺はアオイに結婚を申し込む気でいる。


 でもアオイは大人になるのが遅くて、普通は十一歳か十二歳で大人になるところを、十三歳になってもまだ大人入りができず子供扱いだ。


「ふっふーん、そうねぇ、確かにまだアオイは大人入りしていないわよ」


 おばさんは、なにか含みのある笑みを浮かべている。


 おばさんの表情は気になるが、嘘は言っていないと思う。


 男は大人入りをすると狩りに参加できるようになるが、女は大人入りをしたからといって何かが変わるわけではない。


 それでも、大人入りは誇らしいことだ。


 一人前の人間になった証だ。


 だから多くの女子は早く大人になりたいと思うし、大人になるとすぐに母親に報告して、大人入りをするという。


 アオイが大人になったなら、それを隠す理由はないのだ。


 しかし、だったらあの胸やお尻はどういうことなんだろう?

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