第7話 ウマ娘メイド エマ

「今の声、ニンゲン様が目覚められたのなら連絡をしないといけませんよ、モチポ」


 姿を現したのは、長い黒髪をポニーテールにした、綺麗なメイドさんだった。


 年は僕と同じ高校生ぐらいに見えるけど、落ち着いた雰囲気で、なんて言うか、凄く大人っぽかった。


 メイド服を大きく押し上げる胸につい目が行っちゃって、僕は慌てて視線を逸らした。


「お初にお目にかかり光栄です。ニンゲン様。私はこの城のメイド長、馬族のシャイヤー種、エマでございます」


 上品に会釈をするエマさんの顔の横で、馬の長い耳がピコンと動いた。


「モチポの抱き心地はどうでしたか? 抱き枕性能は特級に指定され王族のお墨付きです」

「だ、抱き心地!?」


 今更気付いたけど、このモチポちゃん、体の割に、結構、いや、かなりおっぱいが大きい。お尻も程良くむっちりしていて、でも背が低いから扱いやすい大きさで、なんていうか一昔前の言葉で言うならトランジスタグラマー(小柄でグラマーな女性)だった。

 甘えるように僕に抱きつくと、それだけでモチポちゃんのむっちりボディの感触が堪能できてしまう。


「えっと、凄くイイです!」


 反射的に答えると同時に後悔。これじゃまるで変態じゃないか。

 なのにエマさんは慈しむようにステキな笑みを見せてくれた。


「そう言って頂けると我々も嬉しく思います。体調に問題が無ければ、着替えをしたのち、姫様に会って頂きます」

「姫様? あれ?」


 よく見ると、僕は自分の服を着ていなかった。


 鳥の刺繍が施された、薄い白地のパジャマみたいなのを着ている。


 ズボンの中に手を入れると、パンツもボクサーパンツじゃなくて、薄地の短パンみたいなのを履いている。


 僕は一瞬で顔が熱くなって、掛け布団を首元まで持ち上げて隠れた。


「あの、ぼぼ、僕の服は!?」

「ニンゲン様のお召し物でしたら、体を洗う為に脱がさせてもらいました。洗濯が終わり、もう乾いております」

「洗う為!?」


 もう僕は、機関車みたいに頭から蒸気を出しそうだった。


「はい。私が全身をすみずみまで、汗をかきやすい部位は特に念入りにこの手で洗浄致しました」


 エマさんは歩きながら細い指先を伸ばして、両手を僕に差し出した。

 僕が何も言えずに固まっていると、エマさんは僅かに頬を染めて、いたずらっぽくほほ笑む。


「安心して下さい。必要以上のことはしておりません。ただ生理現象として、ニンゲン様のものが飛んで、私の顔にかかってしまいましたが」


「何が飛んだの!?」


 僕は悲鳴を上げながら、ベッドの中で股間を押さえ込んだ。


「では、失礼します」


 エマさんが近寄ると、目と鼻の先にエマさんのメロンみたいな胸が揺れながら迫ってきて、僕は両手でベッドを押して、うしろに後ずさって背中が壁に当たった。

 エマさんがかけ布団をはがして、嬉しそうに頷いた。


「ふふ、では体は大変元気なようなので、着替えをさせてもらいますね」

「!?」


 エマさんの視線を追ってから、慌てて前屈みなる僕。

 うぅ、情けない。


「では下着も乾いておりますので、さっそく着替えましょう。モチポ、着替えをここに」

「はーい♪」


 僕の服は用意されていたらしい。

 モチポちゃんが僕から離れて、部屋のタンスから僕の服とパンツを持って来た。


「では早速」

「あ、待ってエマさん。今は、今はちょっとかなりすっごく僕困るんですけど」

「ご安心を、私はメイドです」

「安心できる要素なのそれは!?」

「ニンゲンさまぁ」

「うわぁ、モチポちゃん何をするんだぁ!」


 モチポちゃんが僕の腕に抱きついて来て、エマさんに抵抗できない。


「力を抜いて下さいニンゲン様。すぐに済みますから」

「いやぁ~! らめぇ~! あ、あ、あぁあああああ!」


 この日、僕は汚れてしまった。

   

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ニワトリが飛べないのは才能でも努力でもなく環境のせいだ! 無能な少年と師匠の出会いが、一人の英雄を誕生させる──。

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