第4話 ブラキオサウルスVSゾウ


「あんな化物……あたしらが止めるしかないだろう!」

『当たり前だ‼』


 虎耳の指揮官の背後から、重騎士部隊が駆けつけ、そのまま指揮官の横を通り過ぎてブラキオ部隊に突貫を仕掛ける。


 少女達で構成された西軍において、唯一と言える女性達の重騎士隊。王国最強との呼び声も高いゾウ隊。


 サイ少女達よりも大人びた風貌と、発育の進んだ豊満な体で巨大なハルバードを支え、彼女達一族は草原を踏みしめる。


 地響きを鳴らしながら、西軍と東軍、王国軍と帝国軍最重騎士部隊が真っ向から向かい合う。


 それでも、両者はまるで日本人選手と外人選手並みの体格差があった。


 勝てないかもしれない。



 それでも、彼女達は後退のネジなどとうの昔にはずれていた。そして……



 ブラキオ部隊と衝突して、ゾウ隊の咆哮がかき消える。


 だが理由は別にあった。


 雷鳴が戦場を激震させ、戦場の時間が一瞬で停止した。


 神が杖を振るったように、戦場の誰もが戦いをやめ、天上を仰ぎ見る。


 距離感を失いそうな程に澄み渡った青い空。


 その遥か彼方から響く轟音は雷鳴のようであり、火山の噴火のようでもあった。


 刹那、空を漂っていたいくつかの雲が、一瞬にして視界の外側へと四散。

 空気のハンマーが戦場の全兵隊に叩き落とされて、誰もが目をつぶってしまう。


 その中で、ライオンの耳と、虎の尾を持った金髪の少女がなんとか片目を開け、空の行く末に目を見張った。


「一体、なんなのよこれは……? ん? え!?」


 巨大なほうき星。それが第一印象で、でもそれはすぐに巨大な稲妻の印象も与えた。


 途方も無く大きな隕石が、金色の尾を引きながら飛来してくる。


 同時に、戦場に立ち会う全てのヒトが同じ事を思い出していた。

 

 そうだ。そろそろのはずだ。これが伝説の、一〇〇年に一度の奇跡。神が与える最大の恩寵ではないか。


 腹は決まったとばかりに、誰もが戦いを投げ出して光の落下地点へ遮二無二走った。


 まるでそれがこの戦における一番首だとでも言う様に。


 逆に、落下地点にいた者達は生物的な反射本能として、どうしても逃げてしまった。


 ぐんぐん迫る光の隕石から逃げ出して、でも正確に落ちる場所はわからず逃げ切れない者もいて、金髪の少女が転んだすぐ背後に隕石が落ちた。


「うわっ!?」


 走る衝撃を予想して、少女は無意識に腕で顔をガードしてしまう。


「…………?」


 予想裏切る、拍子抜けの無音に少女が目を開けた。目の前では、光の塊が草むらの上で徐々にしぼんでいく。


 数秒後、パッと消えた光の跡には、見た事も無い服を着たヒトが横たわっていた。


「……これが、このヒトが」


 金髪の少女は目を見張りながら、神がこの世界に与える最大の恩寵へと恐る恐る手を伸ばした。


 伝説へ対する畏敬と憧れ、そして畏れおおさが入り混じった感情のまま、少女はそのヒト、その少年の頬に触れた。


「これが、ニンゲン」

   

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