第18話「フラグって何?」

「バイト、どこかいいところないかな?」


 赤面から復活した夏実は、砂糖が沢山入った紅茶をストローで吸いながら、秋人と冬貴に尋ねる。

 この春夏秋冬メンバーでアルバイトをしていないのは夏実と春奈だけで、実は冬貴も塾がない時にアルバイトを入れたりしていた。

 だから、アルバイトを経験している二人に夏実は尋ねたのだ。


「とは言っても……」


 秋人は夏実に合うバイトを考えるが、うまく思い浮かばない。

 見た目を全面的に押し出したバイトが夏実に合いそうだと思うものの、そんなことを言えば夏実に怒られてしまう。

 そして、友達である以上身の危険がありそうなことは勧めたくなかった。


「そういえばさ、秋人のところって、今度大学生のバイトの人が辞めるって言ってなかったか?」


 ふと、何かに気が付いた表情をした冬貴が、今も考えていた秋人に話を振ってきた。


「えっ、そうなの!?」


 そして、秋人が答えるよりも早く、夏実が身を乗り出して喰いついた。


「あぁ、そうだけど……」

「ふ、ふ~ん、じゃあ、人手足りてないんじゃない?」


 秋人の返事を受け、夏実は何かを期待するようにソワソワとし始める。

 冬貴と春奈は、そんな夏実を(わかりやすいなぁ……)と思って見ていた。


「いや、さすがに一人抜けたくらいじゃ、人手が足りなくなるほどは困ってないけど……。もし困ってたら、俺がシフトに入ればいいだけだし」


 秋人がそう答えると、途端に夏実はシュンとしてしまった。

 さすがの秋人も面と向かってこんな態度を取られれば、夏実が何を考えていたのかはわかる。


「まぁでも、夏実がうちで働きたいんだったら、母さんに紹介しようか?」

「えっ、いいの……?」


「あぁ、人手が多いと余裕ができるし、夏実だったら人柄を知ってる分やりやすいからな」


 秋人はニカッと笑みを浮かべた。

 それを見た夏実は一瞬目を輝かせたが、何かを思い出したようにまたシュンとしてしまう。


「どうした?」

「私……不器用だよ?」


 どうやら、夏実は秋人に言われたことを気にしているらしい。


「それを引っ張るなよ……。やってもらうとしたらホールだから、器用さなんて関係ないぞ。お客様に好かれるように、明るく接客をしてくれたらいいから、そういうのって夏実の得意分野だろ?」


 夏実のコミュ力は学年でも上位に入るレベル。

 そして秋人は、そのことにおいて全幅の信頼を寄せていた。


「ま、まぁ? 私からすれば、確かに余裕かな?」


 秋人に褒められたのが嬉しかったのか、途端に夏実は調子に乗り始める。

 そんなお調子者を見た春奈は、(大丈夫かなぁ……)と心配になった。


「おい、秋人。話を振っておいてなんだが、大丈夫か? 夏実、全力でフラグを立ててる気しかしないぞ?」


 調子に乗った夏実を見た冬貴は、若干眉を顰めながら秋人を見る。


「フラグって何?」


 そしてこういう知識に疎い夏実は、不思議そうに小首を傾げたのだけど、秋人はそんな夏実に対して苦笑いを浮かべるのだった。

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