窓辺 第16話

 ようやく暴れるのを止めたシャーロックに見張りは慎重に近づいた。シャーロックは切れたパイプの断面を呆然と見つめ、ハラハラと涙をこぼす。

癇癪が完全におさまったと判断した見張りは急いでシャーロックから斧を奪い取った。

複数人に取り押さえられて部屋に入れられる。

その間もシャーロックは涙をこぼし続け、全く抵抗することなく引き立てられた。

部屋はすごい事になっていた。

騒ぎを聞きつけた使用人に溢れ、父親は勿論のこと母親までもが寝衣のまま集まって来ていた。

シャーロックは両親に何事かと尋ねられる。

しかし相変わらず答えることはなかった。

酷く怒られた気もするが、そんな事はどうだってよかった。

今やパイプは完全に落ちてしまった。

分かっている、自分で落としたのだ。

あれでは空でも飛べない限り絶対にベランダにたどり着く事は出来ない。

胸のあたりが酷く痛む。

あの有り様を見た二人は何を思うのだろうか、

誰にもバレること無く、二人はいつもの生活に戻れるだろうか、

生き延びて大人になってくれるだろうか、

、、、、、、また窓辺に立って呼びかけてはくれないだろうか。

感じたことのない感情だった。

二人がここに来られないように自らパイプを切り落としたのだ。

なのに、まだここに来て欲しいだなんて、おかしいにも程がある。

二人にはまた知らないことを教えられた。

こんな感情は知らなかった。

知りたくもなかった。





 あれからすぐにシャーロックは全寮制の学校に入れられていた。十三歳から二十二歳までの通う一流校で、シャーロックが本来なら一年前に入るはずの学校だった。

父親の仕事を近くで学びたいという理由で行かないと両親を説得し、入学を免れたのだ。

本当は全寮制だとイーサンやロシュに会えなくなるので嫌だっただけなのだが。

今回編入したのは二人のことが両親にバレたからでは無い、

むしろその逆で、息子を唆したと思われる奴が一向に見つからないのでこのまま屋敷に居ると、

またいつそういう事態になるかも知れないからという理由だった。

普通はおいそれと編入出来るような学校ではないのだが、そこは父親の権力、

ではなく、ひとえにシャーロックの優秀さであった。

どちらにせよシャーロックにとって二人に会えないのには変わりない、

酷くつまらない日々の幕開けだった。





 同じ部屋、同じ教室、同じ顔ぶれ、毎日毎日同じことの繰り返し。

シャーロックは退屈で退屈で仕方なかった。

確かに、ここに来る前も同じ部屋で寝起きし、同じ顔ぶれで遊んでいたが、同じことの続いた日は一日だって無かった。

ここの人間は教師も生徒もつまらない者ばかりだ。

口を開けば自慢話、自分の家がいかに由緒正しいか、自分がいかに優秀な教育者か、力のある者と繋がりがあるか、物の価値の分かる人間か、見栄の張り合い合戦である。

シャーロックはそう言った話にはまるで興味は無かったが、どうせ八年は生活を共にすることになるのだ、仲良くしておくに越したことは無いだろうと上手く話を合わせた。

シャーロックは子供の頃からいつも口元に弧を描いているような子だった。

それも嫌らしい笑みでは無い、笑顔を向けられた相手も思わず笑顔になってしまうようなキラキラとした笑みであった。

これはシャーロックが美しい造形の顔を持っているからでは無い、笑顔だけで人を虜にしてしまう才能はシャーロックが生まれ持ったものだ。

それによって、シャーロックの周りには性別問わず多くの人が集まった。

おまけにシャーロックは編入生でありながら、非常に優秀な生徒であった為、教師陣からもすぐに気に入られることとなる。

家柄良し、成績良し、顔立ち良し、自慢話の大好きなこの学校の人間にとって、関わりを持ってこれほど自慢になるものは他に無かった。

そういうこともあってシャーロックは常に人に囲まれて過ごしていた。



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