望まない物語の中で生きる人

 八話くらいまでは、何故この主人公はこんなにうじうじとしているのかがよく分かりませんでした。しかし一方で、この分からなさこそがこの作品の本質のようにも思いました。
 この人は、他人に分かられるために生きているのではない。九話、十話でそんな感じの表現が出たような気もするので、そういう感じだったのだろうと勝手に納得しています。
 震災という事象。自分の肉体と性の不一致。それらに人は物語を求めるような気もしますが、その本人はただその中で生きているにすぎない。他人に聞かせるために、消費されるために生きているわけではない。
 最初に感じたよく分からないという感情は、結局分かりやすい文脈の中で理解をしようとしたからのように思いました。これはそのような作品ではなかったように思います。
 実際どういう意図があったのかはわかりませんが、他社とのかかわりにおける無意識的な押し付けは、なるほど、重荷になるのだなと分かりました。