第2話 丸つけ

「できた〜!」


 しばらく、本当に真面目に過去問に励んでいたさより。晴れ晴れとした声を響かせると、シャーペンを放り投げるようにして両手を上げた。


「丸つけて、丸つけて、せんせ♡」


 ♡をつけるな、♡を! いかがわしくなっちゃうだろうが。

 ――いや、いかん、いかん。

 俺は今、彼女の家庭教師だ。丸をつけるために存在しているのだ。心を無に、その手に赤ペンを。アソコではなく、赤ペンを立てるのだ――と己に言い聞かせ、「どれどれ」なんて真面目ぶって、彼女のノートに目をやる。

 隣でさよりがウズウズしているのを感じつつ、丸つけを開始する。

 結果は……まあまあ。

 しかし、今まで散々、シャーペンも握らずに俺のアソコをいじってばかりだったさよりである。終わらせただけでも『よくできました』だよな。


「がんばったな」


 振り返って褒めるなり、


「じゃあ、私にも丸つけて」

「何言ってんの?」

「えーっ! 教育を全然分かってないじゃん、斗真くん!」オーマイガッ! とでも言いたげに、仰々しくさよりは驚いて、「褒めなきゃ、ダメだよ〜。ご褒美、大事だよ?」

「ご褒美……!?」

「そ。ご褒美! 丸つけて」

「いや、だから分かんねぇよ!? なんなんだよ、丸つけて、て!? お前のどこに丸をつければいいんだ!?」

「ど、こ、で、も♡」


 だから、♡をつけるなよ!?


「い……意味が分からん!」

「じゃあ、今度は私がお手本見せてあげる!」


 びしっと右手を挙げて、申し出るさより。猫みたいなくりっくりの瞳はキラキラと期待一杯に輝いている。

 なんだ……? なんなんだ? 何をしようとしている?

 どうせ、さよりのことだ。『ご褒美』と託けて、口説いてくるに決まってる。絶対、そうだ。そうに決まっている。

 家庭教師として、『遊んでる場合じゃないだろ。続きやるぞ』と諌めるべきだ。さよりのペースに乗せられちゃいかん。心もアソコも手駒にされるだけだ。

 分かっている。分かっているのに……ああ、いかん。心もアソコも手駒にされたくなっちゃっている――!?


「し……仕方ねぇな!?」期待に膨らむソコを隠すように足を組んで、さも面倒そうに言う。「じゃあ……お手本とやら、見せてもらおうか」

「斗真くん、何サマー!?」

「んなっ……!?」


 ケタケタ笑いだしたさよりに、「お前な……!?」と振り返り、言い返そうとしたときだった。

 ふわりと甘い香りが漂って、柔らかな感触を首筋に感じた。

 え……!? と思ったときには、さよりがそっと俺に身を寄せ、俺の首筋に唇を当てていた。

 ぽかんとしている間に、むちゅうううっと思いっきり吸われ、


「ほわああああ……!?」 


 変な声が出ていた。

 なに、これ? なに、これ!? いきなり、何してんのー!?

 パニクっている間に、「んぱっ」と耳元でさよりが満足そうに唇を離す音がして、


「丸つけ終わり♡」


 無邪気か……! 


「キレイについたね、斗真くん」


 つうっと指先で優しく、首筋を――おそらく、くっきりとキスマークがついているであろうそこを――なぞられ、背筋がゾクゾクと震える。

 あー、もう……ほんとダメだ。

 理性がぐわんぐわんと揺すぶられ、パンチドランカー状態。俺、今、なんでここにいるんだっけ? なんて考え出す始末で。もういろいろどうでもよくなってきているってのに。

 さよりはそっと俺から離れるなり、今更、ちょっと照れたように頰を染めて、遠慮がちに微笑み、


「次は斗真くんの番だよ。早く……つけて」


 ちょっと屈んで緩んだ胸元から谷間を覗かせながら、無邪気にそんなことを言うのだ。



*KACに間に合わず落胆していましたが、思った以上に、フォローしてくださる方がいらっしゃったので、感謝の気持ちも込めて続きを書いてみました。

 お読みいただき、ありがとうございます!

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