第57話

1度目にあたしが見たものは悪魔が見せた幻想だったのかもしれない。



2度目に訪れた時に見えなかったのは、ここへ来ても意味がないと思わせるため。



そして3度目の今日、初めてこの現実が見えたのかもしれない。



「この瓦礫を調べてみようか」



そう言って梓が祠に揺れた瞬間だった、雨も降っていないのに雷鳴が轟いた。



体中に響き渡るような音に悲鳴をあげ、その場にうずくまる。



押し込めていたハズの恐怖心が体全体から湧き上がってきた、その時だった。



闇の中に更に黒い影が現れたのだ。



「なんだあれは……」



透が唖然とした声をあげる。



どうにか顔をあげてみると、3メートルはありそうな黒い影があたしたちを見下ろしていたのだ。



「あ……夢に出て来た化け物に似てる」



そう呟いた時、影が大きく口を開けた。



鋭い牙がこちらへ向けられているのがわかった。



「お母ちゃん」



化け物が言う。



「やばい、逃げるぞ!!」



透が叫び声を上げて駆け出した。



あたしと梓も慌ててその後を追い掛ける。



あれが悪魔?



あたしが産んだ子?



走りながら振り向くと、ソレが音もなく追いかけてきているのがわかった。



とてもあたしたちの足の速さじゃ逃げきれない。



ソレはどんどん距離を縮めて来る。



ほんの数歩歩くだけで、捕まる距離にいる。



それは夢に出て来た光景そのものだった。



次々と食べられるクラスメートたち。



こんなの逃げ切れるワケがない。



ソレは街中の人間全部を食い尽くしてしまうだろう。



その瞬間、なぎ倒された木に躓きあたしは顔面からコケていた。



あちこちをすりむき、ヒリヒリとした痛みを感じる。



「友里!!」



前を走っていた透と梓が立ち止まる。



「行って……。この子はあたしが産んだの。だから、自分で止める!!」



もう、それしか方法はなかった。



これ以上2人を巻き込むワケにはいかない。



「何言ってんだよ! 立て友里!!」



透が叫ぶ。



だけど、化け物はすぐそばまで迫ってきていた。



「あたしが食べられてる間に、早く逃げて!!」



そう叫んだ次の瞬間、あたしの体は空中に浮きあがっていた。



ソレがあたしの体をつまみ上げたのだ。



「お母ちゃん」



ソレがあたしを見て言った……。

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