第28話

ドアを開けると、ソレがマットの上で跳ねて遊んでいた。



「こら、マットは遊び道具じゃないよ」



そう声をかけると跳ねるのをやめてこちらへ飛びついて来た。



「ご飯を用意してきたよ」



そう言ってタオルを手渡すと、すぐに血を吸い始めた。



ジュルジュルと音が鳴る度に、タオルは綺麗な白色に戻って行く。



「お前は本当に食欲旺盛だね。これからが大変そう」



あたしはそう呟き、ソレの頭をなでたのだった。


☆☆☆


結局、叔母は5針縫う大けがをしていたようだ。



慣れないことをするとこういう結果になるのだ。



叔母へ対する同情心なんてかけらもなかった。



包丁が使えなくなるほどの期間、家事をしていなかったということなんだから。



今この家からあたしがいなくなったら、2人はどうやって生きて行くつもりなんだろう。



「今日はお腹一杯食べられてよかったね」



お風呂から出て、自室に戻ってソレに向けて言った。



ソレはさっきからご機嫌で、あたしにくっついている。



ソレの体のベタつきは徐々に消え去り、今は短い毛が生えてきているのがわかった。



どんどん大人の姿に近づいてきているのだろう。



「お前は一体どんな姿になるの?」



あたしがそう聞いても、ソレは首を傾げてこちらを見上げているだけだった。


☆☆☆


翌日、あたしは1日だけのアルバイトを入れていた。



オープン前のお店の陳列をする係りだ。



「良い子にしててね」



ソレに向けて声をかけ、自室を出ようとすると、ソレがあたしの体にしがみ付いて来た。



「ごめんね。今日は仕事があるの」



そう言ってもソレはあたしから離れようとしない。



いくら他人には見えないと言っても今日はアルバイトの日だ。



連れて行くわけにはいかない。



そう思うのに、大きな目でこちらを見つめられるとキツク言い聞かせることもできなかった。



「お母さんがアルバイトをしている間、大人しくできる?」



そう聞くと、ソレは頷いた。



言葉が理解できているのかどうかわからないが、頷かれるとほっておくわけにもいかない。



「おいで」



あたしはソレを抱っこしてトートバッグの中に入れた。



昨日よりも随分と重たくなっている。



今朝用意した食肉の血も全部飲み干していたし、この子の成長は止まらないようだ。



未熟児だったらどうしようかと不安だったから、とりあえずは安心だ。



「問題はお昼ごはん」



あたしはそう呟き、昼用に準備しておいた肉を手に取った。



部屋に置いておけば勝手に食べてくれると思って用意したのだけれど、さすがにこれをバイト先へ持って行くことはできない。



「あ、時間やばい。行ってから考えよう」



あたしは慌てて家を出たのだった。

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