第8話

瞬間、黒い影が祠から立ち上がった。



あたしは地面に膝をついて唖然とし、それを見つめることしかできなかった。



あれは何だろう。



黒くて大きい影は一体……。



そう思った時、影があたしめがけて急降下してきたのだ。



「あっ……」



小さく呟いた瞬間、体に強い衝撃が走った。



影とあたしがぶつかったのだと理解した。



しかし、その後のことは何も覚えていない。



目が覚めた時、あたしは山の麓にいた。



「友里、お前こんなところでなにしてんだよ!」



そう怒鳴って来たのは透だった。



「え……?」



周囲を見回してみると、透の両親の姿もあった。



みんなライトを手に持ち、あたしを取り囲んで心配そうな顔をしている。



「あたし……なんで……?」



「覚えてないのか? 叔父さんが、友里が帰ってこないって連絡してきたんだぞ」



そう言われてあたしは目を見開いた。



叔父さんがそんな風に心配するなんて思わなかった。



ということは、随分と遅い時間なのだろう。



「やっと見つけたと思ったらこんな所で寝てるし」



透は呆れ顔だ。



そういえば、あたしは悪魔山へ登ったはずだ。



そこで祠を見つけて……それからどうしたんだっけ?



思い出そうとすると頭が痛くなった。



顔をしかめていると「大丈夫か? どこか痛むか?」と、透が心配してくれた。



「大丈夫……」



そう返事をして立ち上がる。



あたしはいつ、どうやってフェンスのこちら側へと戻って来たんだろう?



高いフェンスを見上げて首を傾げる。



「友里ちゃん、今日は内に泊まって行きなさい」



後ろから透のお母さんがそう声をかけてきた。



「え、でも……」



「大丈夫。叔父さん叔母さんにはちゃんと伝えてあるから」



そう言われて少しだけ安堵した。



家の家事をしなかったあげく、人の家に泊まるなんて、言語道断だ。



「無理してないかい?」



事情を知っている透のお父さんも心配してくれている。



「大丈夫です」



あたしはそう言ってほほ笑んだ。



こうして理解して、あたしを支えてくれる人がいる。



それはあたしにとってとても大きなことだった。



「辛くなったらいつでも家に来いよ」



そう言ってくれる透に、あたしは心から感謝したのだった。

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