第6話

ずっと我慢してきた涙があふれ出す。



「なんで……あたしが……」



そう呟くと、涙が落ちてコンクリートが黒く染まった。



まるで、今のあたしの心の中みたいだ。



真っ黒で、醜い。



「なんであたしが……!」



もう1度そう言い、コンクリートを殴りつけた。



痛みが感情を爆発させる。



「もう嫌だ!! もう嫌!!」



叫び声と共に大声で泣き叫んだ。



自分より不幸な子は沢山いる。



確かにそうだ。



だけどあたしより幸福な子だって沢山いる。



どうしてあたしがそうならなかったんだ。



あたしがなにをしたんだ。



ただこの世界に生まれてきただけで、どうしてこんな不公平な目に遭わないといけないんだ!



「あああああああああああああああああああ!!!!!」



自分の叫びが地響きとなって世界中に広がればいい。



世界中があたしと同じになればいい。



それでも……帰らなきゃ。



今から帰ればまだ1時間くらいの罵倒で済むかもしれない。



そんなことを考えている自分がいた。



嫌なのに。



帰りたくないのに。



あの2人が、恐ろしくて……!



手の甲で涙をぬぐって立ち上がった。



大きく呼吸を繰り返して、胸の気持ち悪さを払拭する。



フェンスに手をかけて体重を支えた。



今から帰ったら何時になるだろう?



どのくらいの時間をかけてここまで来たのかわからなかった。



ここまで歩いてきた記憶が全くないのだ。



「うぅっ……」



情けない声と共に、家へ向けて歩き出した。



「こっちへおいで」



数歩歩いたところでそんな声が聞こえてきて、あたしは周囲を見回した。



周りに広がる田畑に人の姿はない。



ポツポツと見える民家には光が灯っていた。



ほとんど街灯も立っていないし、真っ暗になってしまうまで時間はかからないだろう。



「帰らないと」



聞こえて来た声へ向けて言う。



「大丈夫。こっちへおいで」



その声は風に乗って聞こえてきているのか、どこから聞こえて来るのか見当もつかなかった。



ただ優しくて。



全身を包み込んでくれるような声。



あたしの吐き気はいつの間にか消え去っていた。



「そこはどこ?」



涙を押し込み、声に訊ねる。



「わかってるはずだよね?」



含み笑いを交えた声。



わからない。



そう言いたかったけれど、あたしは悪魔山へ視線を向けていた。



最初からわかってた。



この声は山から聞こえてきていると。



ただ、あたしはそれを拒絶していただけだ。



「おいで」



「おいで」



「こっちへおいで」



あちこちから聞こえてくる声が頭の中で響き渡る。

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