第39話 後夜祭

 盛り上げを見せた2日目の文化祭もついに幕を閉じた。この後、軽く片付けだけを行い、体育館で後夜祭が行われる。


 後夜祭では、文化祭の催し物の順位が出たり、吹奏楽による演奏が行われたりしている。強制的なものではないため帰りたい人は帰っても問題はない。


 遥夏や龍樹も参加するとのことだったので、純も迷わず参加を決意した。後夜祭が始まる直前に、夢花から後夜祭を一緒に見ないかという旨のメールが届いたので遥夏たちといると伝えると、それでも構わないと返信が来た。


 ステージに近い前の方は熱気が凄いので後ろで固まって見ることにした。催し物の結果はというと、純たちのクラスの縁日は全体の4位という結果だった。クラスメイト達は上位3位に入れなかったことに悔しがってはいたが、十分楽しめたので純にとっては後悔はしていない。


 3位は夢花と見に行った3年E組の劇であり、1位は2年A組が行ったお化け屋敷であった。夢花のクラスの喫茶店はコスプレが人気を博し2位という結果だった。自分のクラスが2位と聞いて嬉しそうな顔をしていた夢花の顔を純は見逃さなかった。


 後夜祭も終盤に入り吹奏楽によるメドレーが始まった。


 純はそのメドレーを聞きながら最近の出来事を振り返っていた。


『義父さんに小説家を目指していることがバレていろんなことがあったな』

『夢花の厳しい特訓は大変だったことを今でも覚えている。ケンカしちゃったけれど、そのおかげで前よりも距離が縮まった気がする』

『遥夏も夏祭りデートに付き合ってくれた。そのおかげで登場人物たちの心理描写が上手く書けるようになった気がする』

『紗弥加さんにはいつも励ましてもらったな。義父さんや夢花とケンカした時もいつも僕の話を聞いてくれた』

『自分は一人じゃない、残り3週間悔いの残らないように頑張らなくちゃ』


    *


 後夜祭を終えると、時刻は7時を過ぎていた。暗いことから龍樹は遥夏を、純が夢花を家まで送ることになった。


 校門で解散しようとしたところ、後ろからトントンと肩を突かれた。


「あれ? 帰ったんじゃないんですか?」

「そのつもりだったんだけど、みんなの写真撮ってないことを思い出したから、近くのデパートで時間を潰してた」


 純の後ろにはカメラを首からかけた紗弥加の姿があった。


「ほらほら早く、先生が来ないうちにさ」


 関係者以外はこの時間立ち入り禁止なので、写真を急いでとることを促してくる。


「ハァ~、誰が来ないうちだって?」

「あ、相田先生こんばんは」

「卒業生はこの時間立ち入り禁止のはずなんだがな」

「ごめんなさい」


 すぐに先生に見つかり頭を下げる紗弥加だった。相田は紗弥加からカメラを取り上げて、「早くしろ」と声を出した。


「へ?」


 状況を掴めない純たちは困惑した。


「一枚だけ取ってやるから、早く5人で並べ。これを撮ったら早く帰るんだぞ」

「ありがとう、先生!」

「ほら、他の先生に見つかったら誤魔化せんぞ、急いで並べ」

「は~い」


 純たちは、校舎をバックに左から遥夏、龍樹、紗弥加、純、夢花の順に並び『パシャ』とカメラが音を上げた。


「ありがとうございました」


 純たちはお礼を言って急いで校門から出て行った。


「うん、撮れてる撮れてる」

「紗弥加さん、後で写真いただいても良いですか?」

「私もお願いしてもいいですか?」


 夢花と遥夏のお願いに対し、「いいよ~」と右手でOKの合図をした。


 こうして純たちの文化祭は終わった。


     *


 文化祭が終わると、純は最後の追い込みに入った。文化祭前日に見せた小説を夢花の指示のもと訂正を繰り返し続け、時間が許す限り、よりよいものを作り上げていった。


 応募締め切り1週間前になると、夜中まで作業する日々が続いた。執筆時間をできるだけ長くできるように夕食は早めにとっていた。そうすると、深夜お腹がすいてくる。


 何か食べ物はないかとキッチンへ向かおうと部屋を開けると、足元にラップが掛けられたお皿の上におにぎりが2つ置かれていた。


 そのおにぎりを誰が作ったかは言うまでもない。純はそのおにぎりをありがたく受け取り、ラストスパートをかけた。


 9月30日、WXホワイトエックス文庫新人賞の締め切りの日。ついに夢花からの許可を得て、純は小説を応募した。

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