第1話 冬眠措置

「みりん、貴様は冬眠措置とする」

「へ?」

 僕ことーーみりんは醤油さんの急な一言に呆気に取られた。

「『へ?』じゃないわよ。あなたがいるだけでどれだけマスターの懐に迷惑がかかっているのか理解しているの?」

 塩さんが続く。

「い、いや、僕はマスターにとっての立派な調味料でーー」

「ハッ! 立派ねぇ……」

 料理酒さんが俺の言葉を遮る。

「テメェがいつ役に立ったんだよ。俺の劣化版でしかないテメェがよ!」

「りょ、料理酒さん。ぼ、僕はあなたと仲間だと……」

 料理酒さん自慢の瓶で冷蔵庫のフチを叩く。

「仲間ぁ……テメェみてぇなまがいものと一緒にすんじゃねぇよ!」

「ヒィ!」

 僕はマスターの大切な冷蔵庫が傷つけられるのを見て、小さな悲鳴を上げる。

「……料理酒」

 醤油さんが小さな声でそう呟くと、料理酒さんは「い、いや、すまねぇ、すまねぇ」と急に焦り出す。

「全く……いくら『次は自分かもしれない』という不安があるからといって、マスターの冷蔵庫にあたるのは褒められたものではないわね」

「なんだと……」

 塩さんの言葉に料理酒さんも怒りのこもった声を出す。

「テメェらだって、そのガラス板のシミはーー」

「料理酒!」

 醤油さんの一喝。料理酒さんは言葉を無理矢理飲み込まされた。

「いい加減にしろ。……そして塩。お前もだ。貴様らの勝手な振る舞いで、この冷蔵庫が汚れたらマスターに合わせる顔がない」

 顔なんて元々ない。と僕は思ったけど、言いとどまった。

「フン……」

 塩さんと料理酒さん互いともそっぽを向く。

 とにかく今は、僕が冬眠措置になる事をどうにか阻止しないと。

「あ、あのさ」

 僕は震えた声を出しながらも続ける。

「折角みんながマスターに美味しい料理を食べてもらいたいって思っているんだから、僕達が争う必要なんて無いんじゃないかな?」

「『僕達』だと……」

 醤油さんが異様に低い声を出す。

「みりん……貴様は俺と肩を並べたつもりか」

「い、いや、僕が言いたいのはそういうことじゃなくて……」

 醤油さんの声音から怒りを感じられる。とそこに、「甘いにゃー」と砂糖ちゃんが甘ったるい声だしながら僕達の会話に割り込んできた。

「甘い甘い。みりんちんってほんと甘いのにゃー。調味料界はいつも競争。マスターに美味しい料理を出せれば、それで良いいうわけじゃないにゃー。結局アタシ達を買ってもらえるのもマスターの懐次第。現にバターちんはマーガリンちん負けて、冷蔵庫から消えてしまったにゃー」

 確かに過去、冷蔵庫内でバターがなくなる。という事件が起きた。これには、いつも余裕を見せている醤油さんでさえ、慌てていたのを覚えている。

 そういえば"バター失踪事件"から醤油さん達は変わってしまったように感じる。

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